るるびっち

ハロルド・ディドルボックの罪のるるびっちのレビュー・感想・評価

3.7
ミッチェル・ライゼンという、コスチュームデザイナー上がりの凡庸な監督がハリウッドに残した功績は二つある。
一つは『モナリザ』の主題曲で話題になった、戦争ミステリー映画『別働隊』を撮ったこと。
もう一つは、二人の天才脚本家を怒らせてしまったこと。
二人の天才はライゼンに脚本を紙屑にされるのを嫌い、自ら監督になる。
一人は『お熱いのがお好き』『七年目の浮気』のビリー・ワイルダー。
もう一人が、本作の監督プレストン・スタージェスだ。
もしライゼンがいなければ、ワイルダーもスタージェスも映画監督にならずに終わったかもしれない。災い転じて福となす。

スタージェスは監督デビューで、いきなりアカデミー賞を取る。華々しくけたたましい活躍で才能を見せつけ、奇抜なオリジナル作品を連発して、あっというまに燃え尽きて5年で消える。(再起を図った時間を入れると約10年)
打ち上げ花火のような人だ。

彼のけたたましさは、そのまま作風に通じている。
登場人物は皆、躁病か狂人のようにけたたましく騒ぎまくり、社会を騒然とさせて事件を起こして大抵、牢屋に入れられる。
そして最大の危機の瞬間、アッ!! というアイデアオチでストンと幕を引く。オチから考えてるのではないか? と言う程、毎回奇想天外(そんなアホな的)に話を締め括る。

今回は往年の喜劇スター、ハロルド・ロイドの『ロイドの人気者』を頭に持ってきて、それから22年後を見せる。過去に栄光のあった人物が、どうやってもう一度輝くか。ロイド自身の人生を彷彿とさせる。

奇声を発したりライオンと絡んだり相変わらず大騒ぎするが、ロイドが老けて切れがないせいか、あまり笑えない。
そもそもスラップスティックな笑いが上手いわけではない。
捻りのあるおかしな展開と台詞が、スタージェスの魅力なのだ。
本作でも随分年下の女性社員を口説くと思ったら、彼女の姉たち(6~7人)に次々片思いをしていたと告白する。
姉たちが皆同じ会社に居て、全員美人で毎回片思いとか、このヘンテコな感じがスタージェス。邦画で言うと、斎藤寅次郎か川島雄三に近いナンセンス感覚。

今回気づいたのは、案外と閉塞的な設定が多いということ。
いつも躁病のようなドタバタ感があるので、今まで気づかなかった。
実は個人の力ではのっぴきならない壁が、常に設定されているのではないか。
現実という鉄の壁を打ち破るために、主人公は意識を失う程のオカシナ状態になる。非常識によって自らのブレーキを壊すことで、常識の壁をぶち破る奇策を生み出していく。
スタージェスの主人公がことごとく記憶喪失や混乱、騙され過ぎて認識力が低下したり妄想に駆られたりするのは、現実打破のため良識というブレーキをとっぱらうからではないか。
だから大抵、主人公は追い詰められて混乱している。正気じゃない。
スタージェス調もキャプラ調とは異なるが、アメリカ喜劇の典型なのだ。
どちらも変人で、社会と軋轢があるのは共通している。アメリカ人って変な奴ばっかだな・・・トランプは意外とアメリカ人のスタンダードなのかも知れない。

今回も奇妙なアイデアオチを使う。実は『ハングオーバー!』の元ネタではないかと思った。
『レディ・イヴ』『パームビーチ・ストーリー』『バシュフル盆地のブロンド美人』などに比べると、切れがなくヌルい感じ。傑作とは言い難い。
けれど正気を疑うような奇妙なオチをもってくる所は、未だに他人が追随できない。実際『ハングオーバー!』のように、現代でも目を引くとんでもアイデアだからだ。
るるびっち

るるびっち