みやび

メッセージのみやびのレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.8
《これぞSF映画!》って感じの濃密なストーリーと完成度!
地球外生命体との遭遇、言語学をユニークに扱ったコミュニケーションを展開しながら、ヒューマンドラマとしても深い仕上がりになっている。

「え?時間の矛盾が起きてない?!」

「ラストの意味は?!」

と、内容をよく理解できなかった方も少なくなさそうだが、実は《タイムパラドックスも起きていないし、時系列も破綻していない》という、物理学的に見ても、むちゃくちゃよく練られている見事なストーリー!

そして、ラストの余韻が素晴らしく、もう一度観ると泣けてくる。。


ある日、宇宙から飛来した巨大な宇宙船が地球の12ヵ所に突如姿を現わし、そのまま上空に静止。その目的は分からず、世界中に動揺と不安が広がっていく。

言語学者である主人公のルイーズ(エイミー・アダムス)は、アメリカ軍の要請を受け、地球外生命体からのメッセージ解読に取りかかるが、次第に思いがけない真実に近づいていく。といった内容。


僕の大好きなクリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』とはまた違う作風だが、それと並ぶ、極上のSF作品!

エイリアン侵略、征服、地球防衛、戦争、みたいなありがちな発想ではなく、SF映画でありながら「言語」を起点に展開されるところが、とても独創的。


物語では言語学者であるルイーズが、宇宙から来た謎の知的生命体に導かれるようにして、人類の言語の性質、そして時間そのものについて考えを深め、解き明かしていくのだが、その過程もまた面白い。


物理学的なアプローチによるストーリー展開や、言語学をベースにしたロゴグラム解析などはとても興味深く、ワクワクした。


個人的に、数十年放射線を取り扱う仕事もしてきた経験があるので、その辺りのディティールもよくできていて、SF映画としてのリアリティに貢献しているなと感じられた。


僕が映画で重視する”音”もハイレベル。

地球外生命体「ヘプタポッド」の人間と全く違う周波数での発声表現や、ポリリズムで構成された劇伴など、音作りや曲作りがヤバい。

会話の音(声)なのにサブウーファーが周囲のものを共振させるほど唸るのは、味わったことのない体験。


劇伴は、2018年に惜しくも亡くなってしまったヨハン・ヨハンソン。

不穏な音楽が、未知との遭遇、不安感をよく表していた。

サウンド自体はシンプルな感じだが、1音1音のインパクトがすごい。

彼は、元々『ブレードランナー2049』の劇伴も担当してたのだが途中降板した歴史が。彼の曲でも観てみたかった。


このあとのネタバレでも、物理学などついてあれこれ語るが、肝はそこではなく、ヒューマンドラマ。

邦題ではあるが『メッセージ』の意味は深い。


《すべてを知ってしまった自分がどう生きるか》


と、考えさせられる革新的映画。




⚠️以下、ネタバレあり!⚠️




映画の冒頭は、偏在する時間(同時にいたるところに存在する時間)の、娘の生から死の順番を見せており、その後、物語の時間軸がスタートし、地球外生命体「ヘプタポッド」がやってくる。

編集の巧みさで、時間の偏在を体感させてくる手法はお見事!
これはもう、完全に騙される。


ラストで明らかになる「ルイーズが未来を見られるような能力」。

ずっとルイーズが感じていた娘の喪失感や思い出のようなフラッシュバックは《全て過去の出来事ではなく、未来の出来事》。


「未来で電話番号を知る」のも「未来で書く自身の著書を読んで言語を理解する」のも、パラドックス起こってるでしょ?

と、ここで矛盾を感じた方が多いかも。


このストーリーを理解するには《同時的認識様式を知っておく》のが鍵。😄

「同時的認識様式」とは、事象を同時に経験し、その根源に潜む目的を知覚する認識様式。

(なんだか小難しいですが。笑)


ヘプタポッドは、僕らが普通の感覚としてもっている、人間の時間の流れである”過去→現在→未来”といった直列的な「逐次的認識様式」ではなく、時間の連なりを瞬時に見て取ることができる並列的な「同時的認識様式」で物事を見ていると考えられる。

つまり、”過去・現在・未来”を同時に見られる。


ルイーズも未来を見ていた訳ではなく、次第に人間の時間概念から解放され、複数の思考を順番とは関係なく同時に見られる、同時的認識様式を知覚することができるようになったという解釈で辻褄が合う。

(原作小説は未読だが、ヘプタポッドの「同時的認識様式」の詳細については、物理学の「フェルマーの原理」や「三世の書」などを用いて丁寧に解説されているとのことなので読んでみたい。)


さらに深掘りすると、「解析力学」という学問や「目的論的世界観」なども出てくるのだが、かなり複雑。笑

もっと勉強すれば、よりこの作品を深く楽しむことができそう。


🔻物理学研究者ジョシュアさんが書いたコラムがとても興味深い
https://fansvoice.jp/2021/02/05/arrival-physics/


最後、心に残った台詞。

「人生の始まりから終わりまで分かるとして、変えたいと思うか?」


最近、時間にまつわる映画を立て続けに観ていたので、ちょうどそんなことを考えていた。


僕の答えは「No」かな😄


この後のルイーズは、“辛く切ない人生を送る“と思われがちだが、その分、一瞬一瞬かけがえのない濃密な時間に幸せを感じながら、きっとそれを噛み締めて生きていくのだろう。
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