【ディストピアなひと部屋】
シュヴァちゃん映画の中ではわかりやすい、入門編的不条理コメディ。
男が或る部屋に転がり込…まされて来るが、そこに据えられたモノを使おうとすると、“あべこべ”の事態を次々引き起こし、振り回されてゆく。そして部屋から出ようとするが…。
今では、シュヴァをみる時は必ず、チェコの圧政とセットで捉えているが、そうするとよりわかり易い。
この映画で用意された部屋では、個人の欲望が徹底的に否定され、叶うことがない。それでも部屋から出られないなら、慣れるしかない。しかし一縷の望みとして、耐えて後から来る人物と交代すれば、そこから出ていけるらしい…。制作当時の、チェコで生きるメンタリティーとはそういう感覚だったのではと。
“自分を見られない鏡”なんて、単純なアイデアだけどこの部屋に相応しい、善きインテリアだ。www
そして、与えられた斧で何を壊すか?という大衆へのサジェスチョン。本作の男が選ぶコトの方が無難で、圧倒的多数だから、当時のチェコという国が成り立っていた…ってそういうコトだと思った。
まあ、別に難しく考えなくとも、シュールなストップモーションアニメとして今でも愉しく、あまり古びぬ質を保っています。
後に、クエイ兄弟が『ヤン・シュヴァンクマイエルの部屋』を作った時、本作の音楽をふんだんに流用したのは、“部屋”という共通の舞台から連想させた遊びだろうか。
<2024.5.15記>