垂直落下式サミング

丑刻ニ参ルの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

丑刻ニ参ル(2015年製作の映画)
4.0
丑ノ刻ニ参ル。いいタイトル!
深夜丑の刻に、藁人形を五寸釘で神社のご神木に打ち付けながら、相手の受難を祈祷する日本古来の呪詛法「丑の刻参り」をテーマにしたホラー作品。
その行為を他者に目撃された場合は、その者を殺されなければならないとのことで、呪い女をみてしまった脚本家志望の男の子がつけ狙われてしまう。
脚本家を目指す若者は、一旦はその光景のあまりのおぞましさに、その場から逃げ出してしまうが、脚本の材料になるかもしれないと、再びその場所へ足を踏み入れてしまい…。
はじまる恐怖の一夜もの。都市部から離れた地方都市が舞台っぽい。主人公と彼女が暮らしてる集合団地のロケーションがいい。今の日本は、新興宗教も古来からの呪術も、こういう淀みの最適化された場所に集まる。
歯止めを失った呪いが、主人公の個人的な地獄めぐりに発展していく。泣かず飛ばずの駆け出し若手脚本家が、イッパツ実体験を踏まえてかましてやろう根性の末路。こういう、体験至上主義ショービス憧れ作品はよくみられるけれど、舞台が東京都心とかですらない雰囲気が好み。
唐突にギャングースみたいな半グレ軍団や、学生時代のいけすかないツレも絡んできたりとかして盛り上げてくれるし、夜闇のベタ塗り具合や空が白んできた明け方の色合いなども、とても日本的でゾクゾクする。
最初に、丑の刻参りをみてしまうところが、けっこう怖くていい。こちらを殺しに来る女は、呪詛法以外は普通の女の子程度の戦闘力しかないみたい。心身ともに疾患があるっぽいけど、それ差し引いても可愛いかったよね。僕も馬乗りで見下されたい。
惜しむらくは、打ち付けられた人形できゃーっ!と過剰に盛り上げていくよりも、ついに女が出てくるところでドドンッと強いショックを与えてほしかったな。最後オチがついたのに、チンタラ続くのもよくない。
雑味のないシンプルなストーリーが気に入りました。呪いに理由を求めるな。そんでもって、呪いなんか関係なしに、人は大事なものを失ってしまう。そのくらい脆いものなのである。どれだけ思ってても、ほんの些細なきっかけでペライチの遺書を残してあちら側に行ってしまう。
最初の彼女ちゃん演技うまかったな。ワタシのせいだとか、アナタのせいだとか、ごめんなさいだとか、こっちがはなし聞いてるあいだにドロドロ泣き出しちゃって、こちらが頑張って表に出さまいとしてるイライラをずるずる引き出してくるタイプ。一緒にいるとダルい女。嫌だなぁ。演技がうまい。
こんな日には、イヤホンで音楽聴きながら人気のない道自転車走らせて、ラーメン食いにいくにかぎる。音量下げて周囲のはなしに耳をそばだてていると、たいていは下世話な会話ばっかり。だけど、そこに身になる知識が転がってるかも。文学はいつだって草の根に咲くもの。そして、とても危険なもの。