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美しい都市のかのネタバレレビュー・内容・結末

美しい都市(2004年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

本作は「別離」に並ぶとんでもない傑作だったが、内容よりも先に日本では考えられないあまりに衝撃的な法整備について記させてほしい。

・未成年でも死罪が適用され、18歳になった時点で刑が執行される。(これは建前で、現実には未成年の段階で刑が適用されることも珍しくないそう)

・殺人が故意の場合、被害者の遺族は、キサース(被害者と同様の苦痛を与える刑。復讐)とディーヤ(賠償金での和解)を選択できる。

劇中では描かれていないが、イスラーム社会において女性の財産的な価値は男性の半分と考えられているそうで、この場合に支払われる賠償金も男性の半額だそうだ。

本作は“日常における些細な行き違いが原因で相手への疑念が募っていき、次第に収拾がつかなくなる”といったいつものファルハディ作品とは違い、このような国の法制度に翻弄される人物達の心情を鋭く描写している、という点で新しく、かつ面白かった。


コーランにはざっくり“相手の罪を受け入れ赦しを与えることで、より精神的な救いを得られる”という文言が記されていて、被害者である少女の父を取り巻く人間も当然のように赦しを与えるべきだと進言するのだが、このような状況で、本来は被害者である父親があたかも無慈悲な悪漢のように見えてしまう社会の構図の胸糞悪さにやるせない思いに駆られた。

娘を失った悲しみを埋めるべく復讐することに囚われ家庭内での分断が深まり、障害を持つもう1人の娘の介護が完全に母親のみに降り掛かっているというのも更に救えない。

兄の提案に対して瞳を輝かせた彼女をとても批判する気にもなれず、かといって他人に枷をはめるような形で娘を押し付けてしまうことを肯定することもできない。

どうすれば誰か一人が不幸を背負うことなく物語を終えることができただろうか、と考えては見るものの、答えは出ず。
そもそもの事件が起きなければアーラは姉への愛情を知らずに済んでいたというのが最大の皮肉。彼が後悔しない道を選んでいてほしいなあ。
か