れじみ

我が道を往くのれじみのレビュー・感想・評価

我が道を往く(1944年製作の映画)
3.7
資金難に喘ぐ古びた教会、非行に走る少年や家出少女、全てが直接的ではないにしろ長引く戦争による社会不安が反映されているように一見見える。ところが、本作の登場人物は誰もが精神的に豊かなのだ。物理的な貧困状態にはあれど精神的な貧困とはほとんど無縁である。
もはや我が国は戦時中にも関わらずこれほどまでに幸福を得られる国です、というプロパガンダなのでは?と疑いたくなるほどの幸福に満ちた物語なのだ。片や特攻だ玉砕だと言っていた国とは大違いで、国力の違いを思い知らされる。

快活な若手神父オマリーが新しく赴任した地での様々な人々との人間模様が描かれるが、彼自身が非常に個性的ではあるのはもちろん、彼が周囲の人間の個性を引き立てる役割を担っているのが面白い。その中でも特に印象に残るのが老神父のフィッツギボンである。長く経験豊富であろう老神父が実は非常に人間臭いというギャップがとても楽しいのだ。

音楽もまた魅力のひとつ。オマリーを演じたビング・クロスビーの低音ボイス、徐々に成長していく聖歌隊、そして実際のオペラ歌手であるリーゼ・スティーヴンスの歌唱シーン、どれも印象的だった。

ラストに訪れる多幸感は「素晴らしき哉、人生!」や「我等の生涯の最良の年」に通ずる素晴らしさ。傑作である。
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