垂直落下式サミング

スター・ウォーズ/最後のジェダイの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

3.8
国内外を問わず、けっこう激烈なアンチが多くて褒めづらい作品ではあるけれど、カイロ・レンという人物の悲哀をみていくと、親世代の偉大さに苦しめられる若者が反逆していくオハナシとしては、欺瞞がなくていいと思う。
カイロ・レンは、悩みが現代的でとてもいい。お姫様で軍事最高司令官なお母さん、そんでお父さんは伝説のならず者で無職っていう、クソみたいな家庭で育って、子供のころにヘラった師匠に殺されそうになって、いつも上司に怒られていて、告白したのに女の子にフラれて、悟ったようなツラして行く手を阻んでくる東洋思想かぶれのガンダルフにはついぞ勝つことができなかった。とてもかわいそうだ。
そこそこ育ちがいいせいでぜったい悪党になんかなりきれないのに、目の前に差しのべられた手を振りほどいてしまうし、視野が狭く経験も浅いわりには後がないから引っ込みもつかないのである。情緒不安定でノイローゼ気味なのも仕方ない。みんな優しくしてあげなよ。
問題点は色々ある作品だけど、そのなかでも決定的なものは、スター・ウォーズの新作で喜んでるオッサン連中が、「お前らが世界を良くしなかったから後の世代が苦しい思いをしてるんだぞ。死ね」と、面と向かって言われてる気分になる要素が多分に含まれているからだと思う。
その最たるものは、初代主人公だったルークの設定だ。めちゃくちゃ残念老人で、なんかやっぱりでっぷり腹が出てるし、ルーク役以降はハマリ役がなかった人だから、出で立ちに重みも貫禄もない。それに引きこもってた理由がみっともないし、普通に先代や先々代と同じ轍を踏んで弟子の育成に失敗してるのが、かつて銀河を救った英雄としては情けない老後だよな。
でも、僕からすると、最後に残ったヨボヨボのジェダイマスターがしょうもない理由で戦いから逃げてるってのは納得度高かった。現役時代の名選手が、指導者に回ったとき名監督になれるわけじゃないしね。
そもそも、初代スターウォーズの団塊世代お気楽ヒッピー的なノリが苦手で、ハンソロやルークがあんまり好きじゃないから、「前時代の価値観の否定」や「親世代の罪と罰の清算」という作品のコンセプトについて、僕は大いに賛同する派ではあるのだけど、オハナシとしてはちょっと行き当たりばったりが過ぎる。
確かに、ストーリーは良くない。指揮官が下す無難な逃げの一手に若者たちが反発するのは理解できるのだけど、やたらとまどろっこしい単独作戦のほうに活路を見出だしていくのがムリクリな感じだし、独立愚連隊の決死の頑張りによって事態が好転しないどころか、コイツらの勝手な行動のせいで味方になかなか甚大な被害が出ていてイライラしてしまった。
カジノのところ無策っぷりは、ホント目に余るくらいヒドイから全カットでいいと思う。ドレスコードあるのに軍服みたいので乗り込んで路駐で捕まるとか。田舎のヤンキーでももうちょいマシっすよ。
薔薇のブローチの人も、ただ出てきて、ただ裏切って、そのあと出てこないから、本当にコードを解除できる人だったのかどうかもわかんないしね。宇宙で薔薇ってどうよってハナシでもありますし。
そんなだから、善玉キャラクターのほうは持て余し気味で、『フォースの覚醒』ではあんなに好印象だった新世代たち、デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック等は、今回あんまり素敵にみえない。
本人は必死で頑張ってるのに、その頑張りは結果に影響を及ぼさない憐憫さだけが際立ってしまっている。
あとさ、あの特攻はいいんですかね?みんなでチェレンコフ推進スビズバーッやったら、銀河戦争のパワーバランスが完全にひっくり返るぞ。デススターに向かってアレやればいいじゃんってなっちゃう。確かに、ここらへんのルール無視っぷりは、ちょっと看過できないかもしれない。