トルーパーcom

エイリアン:コヴェナントのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

エイリアン:コヴェナント(2017年製作の映画)
3.0

#エイリアンコヴェナント
『プロメテウス』の続編となるエイリアンシリーズの前日譚。

「コヴェナント」とは約束・契約の意で、旧約聖書/新約聖書の「約」である。本作は過去作以上に聖書的な表現が多くなり、神話感の強い世界観になっている。

コヴェナント号の乗員は、全員夫婦/恋人同士のペアになっているんだけれど、これはノアの箱舟を意識していると思われる。


■創造主は誰なのか
オープニング、前作にも登場したアンドロイドのデヴィット(マイケル・ファスベンダー)の誕生直後から始まる。

ファスベンダーは顔が綺麗すぎるのでアンドロイド感があるし、ただしゃべっているだけで不穏な空気を作り出せるいい俳優。

アンドロイドを作ったのは人間である。では、人間を作ったのは誰なのか?デヴィットが自身の創造主ウェイランドに問いかける。
※前作『プロメテウス』の冒頭で、この世界における答を観客は知っているが。

一応エイリアンシリーズではあるけれど、作品のテーマとしてはエイリアンよりも『ブレードランナー』(1982)や『2001年宇宙の旅』(1968)に近いところがある。
キャラクター造形や、画面の構図もこの2作を思わせるものが多いです。

本作に限らずだけれど、自分はクリスチャンではないので、聖書からの引用が多い映画はどうしても難解に感じてしまう。

これは知識不足の面もあるけれど、自身の世界観や哲学と作品のテーマが直感的に結びつかないからという面が大きい気がします。

本作はブルーレイにリドリースコット監督の音声解説があるので、それを聞いてようやく理解できた部分もけっこうありました。



<以下、ネタバレあり感想>



■オープニング
オープニングは絵的にかなり好き。
・『ブレードランナー』(1982)を思わせる、アンドロイドのデヴィットの目のアップからスタート

・白く広い、ピアノの置かれた部屋はエヴァンゲリオンっぽさある。実写版「進撃の巨人」でもこんな部屋出てきたような。神話風を指向するとこうなるのか。

・やっと若いガイピアースが見られた笑


■アンドロイドは進化する
本作の物語のテーマは「アンドロイドの進化」である。
人間のために働かせる存在として作られたアンドロイドが自我を持ち「自身は人間を超えたのでは?」と悟ったらどうなるか、という話。

これは『2001年宇宙の旅』でも似たような話が語られるなど、割と古くからあるテーマで、現実世界でも機械が機械を作れるようになるAIの転換点は2045年ごろに訪れるのではなど言われている。

本作では、人が生み出したアンドロイドのデヴィットが、人を排して自らが創造主にならんとする話。

デヴィットが空から例の物体をまき散らすシーンで流れる曲は、ワーグナーの歌劇「ラインの黄金」の楽曲である。この曲は、神々がヴァルハラ城に入るシーンの曲。

つまり、デヴィットは自らを神だと思っていることを示している。
人間は不完全な生物だと悟ったデヴィットが、自ら創造主=神となり、より完璧な生物を創造しようとする話。

けれど、戦闘能力はともかく、エイリアンたちは知能的には人間よりかなり低いと思われ、彼らでは星系間移動とかそういうことはできないと思うので、エイリアンを創造してじゃあどうするんだ、っていうのはけっこう疑問に思ってしまいます。


■映像
全体に、映像面やSF的描写は割と良かったと思います。

◆ソーラーパネル
コヴェナント号に搭載されたソーラーパネルは、アメフトのグラウンド3つ分の銅で編まれたものとのこと。このパネルで、立ち寄った太陽系からソーラーエネルギーをチャージして燃料に変えるのだ。

「あと○回チャージして旅を続けます」みたいなセリフがあったけど、こういう設定はけっこうイイと思う。
そんな何十光年先まで旅するのに燃料どうしてるんだ問題に対する1つの答。

◆画面外から宇宙船登場
謎の惑星到着時のカットはスターウォーズEP4のオープニングっぽい。
画面右下からコヴェナント号がぐわーっと登場する絵はかっこいいです。

◆ロケ地
最初の着陸シーンの全景含め、ロケ地はニュージーランドのサウスアイランド(南島)での実写とのこと。滝や崖など、何もかもスケール感があって割とすごい。
映像のクオリティは前作の方が若干高かったような気もするけれど、惑星のスケール感は今作の方が上に感じました。

◆神殿
ひと通りお約束のパニック描写を終えた後に登場するローブの男、ジェダイかよ、って思ってしまった。
そして唐突に登場する大量の死体に囲まれた神殿。ここでなんか一気に神話感が出て別の映画みたいになってしまった感ある。

リドスコ監督いわく、この神殿周辺には200万人の住民がいたのに全滅したって設定らしいけれど、そこまでのスケール感は感じられなかった。


■キャラクター
今作はデヴィット&ウォルターが完全に主役級なので、人間キャラは割と弱めだったような。

◆ダニエルズ(キャサリン・ウォーターストーン)
死亡した夫と約束した丸太小屋を新天地に建てるんだ、ってことで釘をペンダント代わりに首にかけた女性主人公。

役者さんは180cm超えの長身らしいけれど、ベビーフェイスなのでそんな大柄に見えない。
そのためリプリーのような強さは感じられないけれど、終始メンタル面の強さは至るところに見えて、女性的な強さが表現されていて良いキャラだった。

◆オラム船長(ビリー・クラダップ)
船長の死亡で繰り上がった2代目船長。終始無能感を発揮し続けていてイライラするキャラクター。
こういうキャラが画面に映っていると「早くエイリアン出てこねえかな」とか思ってしまう。

このキャラに限らず、本作は全体に人間キャラの無能感がありすぎでイライラした。

◆テネシー(ダニー・マクブライド)
『ファンボーイズ』(2009)ですげえイイヤツだった人。出た瞬間「あっ!」と思ってしまった。
なぜかカウボーイハットをかぶっている。未知の惑星への移住モノSFって、キャラクターにカウボーイ系の衣裳着せがち。

◆マギー(エイミー・サイメッツ)
エイリアンにパニックになり船内でショットガンを乱射して着陸船を爆破させる無能オブ無能。頭悪すぎ。
宇宙飛行士ってもっと冷静な立ち回りできる人物が選抜されるものなんじゃないんか、ってイライラする。

判断力なくパニックになるだけでもイライラするのに、足すべらせたり、自分で閉めた扉に足挟んで骨折したり見てられない。

◆ローゼンタール(テス・ハウブリック)
衝撃的な死に方をする巨乳女子。水に浮かぶ頭部は蝋で作った人形らしい。素晴らしい


まあ、エイリアン登場パニックを描くためのお約束なんだけれど、とにかく本作は人間キャラの無能っぷりに終始イライラする。

コロナ禍を経験済みの今見ると、未知の惑星に降り立つのに無防備すぎじゃない?と思ってしまう。
「酸素/窒素あるから大丈夫!」のガバさ。フルフェイスで行けやと思っちゃう。
あんな派手な死に方した死体に近づいて悲しむのも意味不明。宇宙飛行士ならもっと警戒しろやとイライラ。

とはいえ、昨今のコロナ禍でも、海外ではみんなマスクしなさすぎ、装着してても皆すぐ外して定着しないって話をよく聞いたので、案外こういうのがリアルなのかもしれない。


■エイリアン
今回はアンドロイドがメインなので、エイリアンの存在感が薄かった印象。ここは痛かったと思う。
今回のエイリアンは割と人型で、犬みたいに4つ足で素早く走り回る感じもあまり面白味がなかった。

最終決戦で、エイリアン主観の飛蚊症みたいな絵が出たのはけっこう好き。


■ラストシーン
ピッコロ大魔王みたいなアレは、コカインの密輸の手法にヒントを得たとのこと。コンドームに入れたコカインを飲み込んで密輸する強者がいるらしい。

最後のダニーとのやりとりから、彼はウォルターではなくデヴィットだったことがわかったけれど、腕はどうしたのかというのが謎。
ウォルターと思わせるために自分で切断したのか?
それとも脳内のデータを同期する的な方法でウォルターの身体を乗っ取ったのか?

とはいえ、同じ顔の2人のキャラが出ている時点でこういうトリックは必ずあると思って観ていたので、まあお約束な終わり方ではあるかなと思いました。



■その他
・カントリーロード
故郷へ帰りたい、と歌うジョン・デンバーの『カントリーロード』に導かれ着陸する主人公たち。
謎の通信をキャッチし、調査しにいくという展開は1作目のエイリアンと同じようになるよう意識したらしい。

・髪
アンドロイドって髪伸びるの?ってのがすごい気になったんだけど、リドスコ監督は音声解説で
「スーパーアンドロイドなら伸びるんだろう」とか適当なこと言ってて笑った。



【スコア】
★3.0で。

宇宙船の設定などSF面はけっこう好き。
ファスベンダーも良かったけれど、人間キャラが誰1人好きになれなくてうーんな感じでした。
アンドロイドvs無能な人間たち、っていう対立軸が目立ちすぎていて、肝心のエイリアンが空気なのも大問題。

当初3部作予定だったらしいけれど、結局これの続編はどうなったんだろうか。
トルーパーcom

トルーパーcom