針

無垢の祈りの針のレビュー・感想・評価

無垢の祈り(2015年製作の映画)
3.8
平山夢明の同名短編小説の映画化。結局観ずじまいになりそうなので思い切って配信レンタルで視聴。
暗いししんどいしショッキングすぎるので人には薦めづらいけど、自分はけっこう良いと思いました。

主人公は小学生の女の子、フミ。学校ではいじめられ、家には宗教にのめり込む母親と暴力的な義父がいて居場所がない。そんな彼女の近辺で連続猟奇殺人事件が起こり始め、それに合わせてフミは自転車で近所の廃墟群をうろつくようになる……。

『独白するユニバーサル横メルカトル』に入っている原作を読んだのはもう10年ぐらい前で、おおまかにしか覚えてないし正直自分はまあまあだった記憶……。しかしこの作品はきちんと映像作品としてリビルドされてる感じがして、いい映像化だなーと思いました。あとこれを観て、確かに原作も異色の殺人鬼ものだったんだなと再認識したり。

まあとにかくフミの生活を観ているのがつらい……。暮らしの中に、他人がもたらす苦痛が絶え間なく存在していて、でも彼女はまだ子供なのでそこから逃げることもできないという、それを観続けるのがとにかくいたたまれない……。
原作はどうだったか忘れたけど、映画は学校については映像としてまったく描かず、家の中とフミの廃墟めぐりの二つの種類のシーンに絞って描いています。

つらいながらも進行自体はわりと淡々としてる感じ。しかし彼女の学校事情+インスタントラーメン+服装+自転車で駆けまわるシーンなどの反復によって、フミの生活パターンやその心理状況がおのずから見えてくる演出がうまいなーと。

あとはロケーションの勝利ですね。川崎の工業地帯で撮ったらしい、郊外のちょっとさびれた町の雰囲気がくすんだ緑っぽい映像で表現されていて、それらが醸し出す閉塞感がすごくいいです。
フミがひとりで自転車を漕ぐシーンはドラマが進むわけでもないし地味っちゃ地味なんだけど、それ以外の家庭シーンのあまりの息苦しさを受けて、むしろその孤独に一種の解放感が生まれていて、それがちょっとだけ心地いいと同時にどうしようもなく哀しい……。

それとこの作品には「人形」と「ラジオ放送を聞く男」という不思議な演出があって(原作にはなかったはず)、なんだこれ? と最初は思ったのですが意味が分かってからは…………となりました。えぐすぎるけど映像表現としてはうまい。

ということで観ていて楽しい作品ではまったくないのですが、それでもこれが成立しているのは、確かに現実にはこういう地獄があるだろうという気が観ているこちらもしてしまうからだと思う。身も蓋もない残酷な現実の一端に触れてると感じさせるがゆえにこの作品も存在意義を持ってるのだろうなと。
構成はかなりシンプルですがその分を映像が補っていて、特にフミの自転車のシーンの反復によって成立している作品かなーと自分は思います。

あと原作者の平山先生がかなり重要な役で出ていて、しかも演技がけっこう上手かったので笑っちゃいました。そこだけがちょっと救いかなぁ……。

あとはコメントで。
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