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ブリッジ・オブ・スパイのYYamadaのレビュー・感想・評価

ブリッジ・オブ・スパイ(2015年製作の映画)
3.7
【監督スティーブン・スピルバーグ】
第29回監督作品
◆ジャンル:  
 史実ドラマ、サスペンス
◆主な受賞歴
 第88回アカデミー/助演男優賞
 (マーク・ライランス)

〈見処〉
①冷戦下を描く、重厚な史実ドラマ
・『ブリッジ・オブ・スパイ』は『リンカーン』(2012)以来3年ぶりとなる、2015年に公開されたスティーヴン・スピルバーグの第29回監督作品。「Bridge of Spies」は、スパイ交換が行われた東西ドイツ国境、ベルリンのハーフェル川に掛かるグリーニッケ橋を指す。
・舞台は米ソ冷戦下の1957年。ブルックリンで画家を装い諜報活動を行っていたソ連のスパイ、ルドルフ・アベル(マーク・ライランス)は、ホテルの一室にて情報解読しているとき、FBI捜査員が突入を受け、逮捕される。
・ニューヨークで弁護士をしていた ジェームズ・ドノヴァン(トム・ハンクス)は保険の分野で着実にキャリアを積み重ねてきたが、ある日、連邦裁判所弁護士会からアベルの弁護を依頼される。
・敵国のスパイを弁護することに非難を浴びせられても、弁護士としての職務を果たそうとするドノヴァンと、祖国への忠義を貫くアベルの間には、次第に尊敬の念が芽生えていく。
・死刑が確実と思われたアベルは、ドノヴァンの弁護で懲役30年となり、裁判は終わるが、それから5年後、ソ連を偵察飛行中だったアメリカ人パイロットのパワーズが、ソ連に捕らえられる事態が発生。
・米国CIAはアベルとパワーズの交換を画策し、秘密裏にドノヴァンに交渉役という大役を任じ、治安が不安定な東ベルリンに向かわせる…
・本作は、スピルバーグ演出、ジョエル&イーサンのコーエン兄弟の脚本によるハリウッド最高峰の製作陣の力量にて、冷戦下のスパイ・サスペンスのみならず、アベルとドノヴァンの間に見てとれる一級のヒューマン・ドラマに仕立てられた娯楽映画である。
 
②スピルバーグとトム・ハンクス
・本作が描く時代背景は「キューバ危機」の僅か5年前である冷戦下。スピルバーグは、判断を間違えれば核戦争につながりかねない状況を任せられた実在の弁護士を「正義は皆に平等である」と説く誠実な男として演出することを決めていたそうだが「ドノヴァン役はトム以外考えられない。トムがいるだけで作品が豊かになるんだ」と、トム・ハンクスをキャスティング。
・一方のハンクスもわずか8年の間に4本目のスピルバーグ作品の出演となるが、『プライベート・ライアン』(1998)は実話に基づく感動作として、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(2002)は執拗な追跡劇として、『ターミナル』(2004)は政府の姿勢を問う作品として、作品毎に異なるコンセプトに遣り甲斐を感じ、キャスティングに応じている。
・スピルバーグ常連俳優は、他にリチャード・ドレイファス、ハリソン・フォードも挙げられるが、90年代後半以降のスピルバーグの演出を更に一段の高みに押し上げたハンクスが、その最上位に位置している。

③結び…本作の見処は?
○: 140分強に及ぶ長尺作品ながら、前半の法曹シーン、終盤の人質交換シーンなど、緊張感が切れない作品となっている。
○: 「忍耐のアベル」と「誠実なドノヴァン」のイデオロギーを越えた信頼関係が心地好く、ラストはしっかりと余韻を残す。
○: 複雑な時代背景の作品展にありながら、非常にわかりやすい。わかりやすい作品を撮らせたら、スピルバーグの右に出る監督は然う然ういない。
▲: J・ウィリアムズではない、劇中曲は、印象に薄い。
▲: スピルバーグの社会派作品の中では、最も印象的な場面に劣っている。
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