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セッションのMSTYのレビュー・感想・評価

セッション(2014年製作の映画)
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この映画の邦題は『セッション』となっていますが、原題は『Whiplash』(鞭打ち)です。ドラム演奏の際のスティックが鞭のようにしなる様子、あるいはフレッチャー先生による暴力をも厭わない演奏指導の厳しさが、この原題に反映されているのかもしれません。また、ジャズの作曲家でサックス奏者でもあるハンク・レヴィが1973年に発表した変拍子の楽曲「Whiplash」が、映画の中で何度も演奏されています(劇中に「8分の14拍子」と書かれた楽譜が出てきますが、その楽譜の曲が「Whiplash」です)。

一見するとジャズのドラム演奏に主軸を置いた音楽映画なのですが、わたしにとってのこの映画は、音楽映画というよりはむしろサイコホラー映画でした。何と言っても、J・K・シモンズが演じるフレッチャー先生がめちゃくちゃ怖い! 気迫に満ちた演技に圧倒されそうになります。

この映画は、監督の実体験に基づいて制作されたとのことです。映画の原題が『Whiplash』であることから、「ジャズ演奏のライヴ・パフォーマンス」よりも、「先生の演奏指導の厳しさ」に重点を置いた作りが目指されていたのかなと推測できます。確かに、演奏指導の理不尽さの描き方は、カメラワークや俳優たちの迫真の演技も相まって、とても素晴らしかったですし、最後のシーンもスカッとします。

個人的に気になったのは、ジャズという音楽を取り上げているにもかかわらず、フレッチャー先生の指導として取り上げられているのが演奏スピードを上げることのみに絞られている、という点です。リズムの正確さや独特のノリ、音の強弱、ハイハットやスネアドラムを叩く位置、スティックの使い方、などなど、ジャズでのドラム演奏に関して考えられることはスピード以外にもいろいろ挙げられるのに、なぜ演奏スピードのみに焦点を絞って取り上げられているのか。確かに、速いスピードで演奏できるというのは聴き手を魅了する要素のひとつですし、それを可能にするためにはかなりの鍛錬が必要です。しかし、上にも書いたように、音楽的な技巧の魅せ方はスピードだけに限定されるものではありません。そのような描写がなされた理由をいろいろと考えてみようとしたのですが、結局、明確な考えを編み出すことはできませんでした。もし何か考えをお持ちの方がいれば、教えていただけると個人的にとても嬉しいです。
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