keith中村

この世で俺/僕だけのkeith中村のレビュー・感想・評価

この世で俺/僕だけ(2014年製作の映画)
5.0
 初めて観たけど、素晴らしい映画だった。
 いやぁ、月川翔、やっぱいいじゃん。
 
 月川作品を初めて観たのは、2017年の「君膵」だった。未読だったけど、原作が号泣案件だと聞いていたので、ハンカチを握りしめて劇場に足を運んだのだが、「なんじゃ、これは」と思ってしまい、その時初めて目にした「月川翔」という監督名を、まずはネガティブな印象で捉えてしまった。
 調べてもわかんなかったんだけど、芸名っぽいし、監督なのに芸名なんてねえ、なんて思っちゃった。あと、カブトムシを育てるのが得意な役者さんにも似た名前だし。
 
 その後、監督作と知らずに観たのが「センセイ君主」と「響 -HIBIKI-」。
 前者はティーンエイジャー向けコメディとしては全然悪くない作品だった。
 しかし、それ以上に後者が素晴らしかった。
 「響 -HIBIKI-」って芸術論を扱った作品ですよね。それを体現するのが、スタニスラフスキーやストラスバーグなんて多分知らないだろうに、自らメソッド演技を確立してしまった天才少女平手友梨奈。彼女も見事だった。
 
 それでも、月川翔は私の定義上、「ティーンエイジャー向けのプログラム・ピクチャーをそつなくこなし、手堅い興収を挙げることができる、邦画業界的に便利であろう人」くらいにしか思ってなかった。
 
 私が決定的に月川翔を尊敬するきっかけとなったのが濱口竜介監督作「ドライブ・マイ・カー」騒動の一環。
 あれがオスカーの国際長編映画賞を獲って、日本中が騒いでいた頃(って、たった今年の話なんだよね)(結局あれって騒いでた人のうちどれくらい劇場に行った? 配信で観た?)、テレビのインタビューで濱口竜介について月川翔がこんなことを話していたのを偶然見たのですよ。
 
「私は濱口竜介監督作品を観て、この人には太刀打ちできないと思い、路線を変えることにしました」
 正確な言い回しは覚えてないけれど、月川監督はそういった趣旨の発言をしていた。
 
 二人とも自主映画・学生映画からスタートして国際的な賞を獲って出てきた監督なので、位相がかなり近いんです。
 月川さんは、なんとウォン・カーウァイやソフィア・コッポラが審査員をつとめた「LOUIS VUITTON Journeys Awards 2009」で審査員グランプリまで獲ってる!
 
 ものすごく危うくて乱暴な言い方をすると、映画って2種類あるじゃないですか?
 つまり、「作家性が発揮できる(かつ、発揮できる人しか撮れない)芸術映画」と「作家性を(プロデューサーからは全然)望まれていない娯楽映画」。
 さっき書いた月川監督の発言は、「私は濱口竜介監督作品を観て、芸術映画の世界ではこの人に勝ち目はないと思い、商業娯楽作品に転向しました」ってことなんです。
 
 いや、私は常に「すべての映画が好きでありたい」と思ってる人間なので、決して一方的な芸術映画優位主義者ではないんですよ。ただね、月川監督の発言は、たとえば野球選手が「ぼくは打者としては自信がないが、守備は得意です」なんて言ってるのとは土俵が違う。いや、「マウンドが違う」か。ん~、そんな言葉はないか。ええい、ややこしい!
 
 これは、「私はサリエリに過ぎないけれど、彼はアマデウスだ」ってのと等しいんですよ。
(「イエスタデイ」で、これずばりエド・シーランが言ってたよね!)
 つまりは、完全なる敗北宣言なわけですよ。
 
 説明が長くなったけど、つまりはそう発言する月川翔をテレビで見たのさ。
 そんで、私はこう思ったの。
「ひゃあ! なんて誠実な発言をする人なんだろう!」
 その瞬間に私は映画監督月川翔を尊敬したのです。
 そして、「この人たちは何て過酷な世界で生きているんだろう」って、改めて世界の映画人全員に対する敬意を覚えたのさ。
 
 で、その時思い出したのが「響 -HIBIKI-」ですよ。
 繰り返すけれど、あれは芸術論を語った映画。
 モーツアルトとサリエリ的な芸術論でもあるし、「作品の気高さと作者の褒められぬ人格を同一線上に語っていいのか」という問題も提起していた。
 
「なんだ。月川監督、全然それに自覚的だし、凄い人じゃん。俺に見る目がなかっただけじゃん!」
 と、とても恥じ入ったのでした。
 
(余談だけど、濱口監督の徹底的な演出が、ともすれば出演者たちの関係性を狂わせることもあった、なんていうゴシップ的なエピソードは、それはそれでメリットデメリット両方あるから、ここでは書かないでおくわ)←書いとるやん!
 
 長々と書いたわりに、本作にはぜんっぜん触れてないなぁ。
 例によって焼酎ラッパ呑みレビューなんで、脱線しかない(今週金曜健康診断なんで、今週は断酒だと思ってたんだけどな…)。
 まあ、いいや。本作観てくださいよ、みなさん。
 これ、「負け犬たちのワンスモア映画」でもあるし、「Do The Right Thing 映画」でもあるんです。
 めちゃめちゃいいですよ。月川監督、冴えてますよ。
 
 だからさ。
 いわゆる「いい方の映画」しか観てない皆さん。
 こっちの方の映画だって甘く見るなって話なんです。娯楽舐めんな! ってことなんです。
 
 ただの娯楽作品だと思われてたハリウッド映画を再評価したのが「カイエ・デュ・シネマ」のお歴々じゃないですか?
 「シネコン行かな~い」とか「BTTFとかスター・ウォーズ観たことな~い」なんて言ってる皆さん!
 娯楽を舐めんなよ!
(うちの会社の後輩にもいますよ。ただね~、彼は性格がいい奴なんだ。だからこないだ呑んだときに、「よし! 君には一生
BTTFを観ない自主決定権を与える!」なんて宣言しちゃいました)
(ただ、奴は何故か三木聡監督作は大好きっつてたな。めっちゃ謎ww)←三木さんをディスってるわけじゃないです。落差に爆笑しただけ!
 
 だからさ。
 前に書いたこともあるけど、今の日本のティーンエイジャー向け映画だって、監督さんたちは頑張ってるんだよ。
 日本で映画に関わってても全然喰えないんだよ。
 それでも頑張って、プロデューサーや製作委員会から駄目だしされない程度には作家性を出してんだよ。
 だから、馬鹿にして切り捨てんなよ。
(スコセッシ! ちょっと今お前に向かっても言っちゃった)
 
 両方の映画が全部良いんだって!
 だって、もう、ワカンダ・フォーエバーだよ!
 
 最後にひとつ。
 今公開してる「ひぐらしのなく頃に」、じゃなかった。なんかそれと似たタイトルのハリウッド映画あるじゃん! なんかザリガニがどうのってやつ。
 あれ撮ったやつ、出てこい!
 お前くらいのバランスがいっちばん鼻持ちならないわ!