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ヘイトフル・エイトのYYamadaのレビュー・感想・評価

ヘイトフル・エイト(2015年製作の映画)
3.3
【監督クエンティン・タランティーノ】
第8回監督作品
◆ジャンル:  
 ミステリー、西部劇
◆タランティーノ肩書:
 監督、脚本、ナレーター

〈見処〉
①ほぼワン・スチュエーション密室劇
・『ヘイトフル・エイト』は、2015年に公開されたタランティーノ第八回監督作品。
・南北戦争後のアメリカ。猛吹雪の中の家屋に閉じ込められた、8人の悪人による密室劇を描いた、6章だてのミステリー映画

◆第1章「レッドロックへの最後の駅馬車」
・猛吹雪が迫るワイオミングの山中にて、立ち往生してしまった元北軍少佐の黒人の賞金稼ぎウォーレン(サミュエル・L・ジャクソン)は、通りかかった駅馬車を止め、
同乗を求める。
・駅馬車には「首吊り人」と呼ばる賞金稼ぎルース(カート・ラッセル)が、1万ドルの賞金首デイジー・ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)をレッドロックへ連れて行く途中であった。
・馬車の中、ウォーレンは大切なリンカーンからの手紙を2人に見せ、ルースは感嘆するが、デイジーが手紙に唾を吐いたため、ウォーレンは咄嗟に彼女を殴りつけて馬車から落とし、手錠に繋がれたルースも一緒に落ちてしまう。
・冒頭5分間のセリフのない雪山の静けさが印象的。

◆第2章「ロクデナシ野郎」
・落ちたルースらを拾うため停車した馬車に「マニックス略奪団」の末子クリス・マニックス(ウォルトン・ゴギンズ)が近寄る。
・彼はレッドロックの新任保安官として町に向かう途中だと言い、ルースはマニックスの同乗をしぶしぶ認める。
・ウォーレンのことを知っていたマニックスは、ウォーレンの南北戦争のときねいきさつとともに侮蔑の言葉を投げるが、ウォーレンに銃を突きつけられ押し黙る。

◆第3章「ミニーの紳士服飾店」
・猛吹雪のため、ルース一行は道中の「ミニーの紳士服飾店」で停車。店主のミニーは不在、留守番のメキシコ人ボブの他に
店には3人の先客がいた。
・饒舌で紳士的な巡回執行人モブレー(ティム・ロス)、厳ついカウボーイのジョー・ゲージ(マイケル・マドセン)、無口な老人で元南軍のスミザーズ元将軍(ブルース・ダーン)。ルースはウォーレンに対し、3人のうち少なくとも1人がデイジーの仲間だと指摘し、2人は警戒する。
・そこでウォーレンは、スミザーズの息子チェスターをいたぶって殺害したことを嬉々と話し、スミザーズを挑発。怒りに堪えかねたスミザーズが銃を構えようとした瞬間、ウォーレンは「正当防衛」の早撃ちで老将軍を射殺する。
・「雪山」「密室」「カートラッセル」「エンニオ・モリコーネ」の設定は『遊星からの物体X』のオマージュ。
このあたりから、会話シーンが長くなり、タランティーノ節が炸裂していく…

◆第4章「ドメルグには秘密がある」
・ウォーレンがスミザーズを撃ち、皆の注意が向いていた時、何者かがコーヒーに毒を入れた瞬間をデイジー・ドメルグが見ていた。
・コーヒーに毒を入れた犯人は?また、誰がその被害に合うか?

◆第5章「4人の乗客」
・時間軸は同日の朝に遡る。女御者ジュディ(ゾーイ・ベル)は4人の乗客を乗せ、ミニーの紳士服飾店に到着すると、店にいたスミザーズ以外全員を殺害
・ジョディら4人はこそが、ルースが警戒していたデイジーの仲間達であり、ルース一行の到着を待つ。

◆最終章「黒い男 白い地獄」
・時間軸は元に戻る。生き残るのは誰?最終章で全容が分かるが、160分超の大作。流石に長い!

②盗まれた脚本
・2014年、『ヘイトフル・エイト』を制作するつもりで、演者3人を含む計6人に渡した脚本の何れかが外部に流出、米国「ゴーカーメディア」が一般に公開してしまうという事件が発生。
・激怒したタランティーノは「ゴーカーメディア」を告訴請求、『ヘイトフル・エイト』の制作は白紙となる。
・最終的には、カート・ラッセル、ティム・ロス、サミュエル・L・ジャクソン、マイケル・マドセンらのキャストによる朗読会を実施し、好評であったため映画化プロジェクトは再開された。
・近年では、その流出元が特定されたようだが、事件当初は『レザボアドックス』でスパイを演じていたティム・ロス犯人説が流れたり、そんな疑心暗鬼のなか、嘘ツキを探す本作の物語が撮影されたのは興味深い。

③遺恨の物語
・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』『ジャンゴ 繋がるざる者』は、それぞれ「ナチス」「黒人差別」に対する「復讐」がテーマであったが、本作は、その先を行く「遺恨」。
・南北戦争直後を舞台に「北軍vs南軍」、引いては「黒人vs白人」の遺恨が描かれ、最終章では、黒人と白人の「融和」を描いている。
・また、本作では御歳87歳のエンニオ・モリコーネが35年ぶりに西部劇の作曲を手掛けたが、バイオレンス作調のタランティーノを高評価しないモリコーネが、本作により、初のアカデミー作曲賞を受賞。そのスピーチの際にタランティーノを讃えたモリコーネにとっても「遺恨と融和」の機会となったはず。

④結び…本作の見処は?
近年のタランティーノ作品で興行収入が低調であったのも頷ける。
○:全員が敵対。密室空間による先の読めないミステリー
○:タラ特有の激しいバイオレンスは健在。
○悪人8人に対し、登場人物は9人。善人1人を認定する楽しみ。
×:タラ独特の長い会話シーンにて、ストーリーは延伸。無駄話は現代劇のほうが共感出来る。
×:目が慣れるまで白人・ひげ面・ウェスタン衣装のキャラクター判別が難しく、映画の世界に浸り辛い時間帯あり(特に第3章)。
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