ジーナ

アメリカの兵隊のジーナのレビュー・感想・評価

アメリカの兵隊(1970年製作の映画)
3.9
ファスビンダーのギャング映画三部作の3作目。
1作目は「愛は死より冷酷」、2作目は「悪の神々」となっているらしい。
それより前に短編映画「小カオス」でも小物ギャングを取り扱ってますね。
本作以降、あまりギャング映画を撮らなくなったのは残念。

本作は渡米していたドイツ生まれの殺し屋の男が主人公。
殺しの依頼を受けドイツに帰国した彼が仕事を遂行したり、家族に会うため実家に帰ったり、ある女に惚れたりする様を描いている。

殺しの依頼をしたのは何と刑事達であり、冒頭その刑事らが賭けポーカーをしながら殺し屋の到着を待つという権力側の腐敗を感じさせるシーンから始まるw

初期ファスビンらしく派手さはなく、主要な登場人物達はあまり感情を爆発させたりはしませんが、ニヒルな殺し屋が母親に冷たくされたり、惚れた女と共に高飛びしようとするなど、少しづつ感情を顕にしていく経過が面白い。
(何故だか高飛びしようとするのは日本。ファスビンは「都会の放浪者」や「第三世代」でも日本要素が出て来るのですが、正直嬉しい)

本作はむしろ脇役達が派手で目立っている。
ホテルに務めるメイドさんはとんでもない事するし、殺し屋の弟はゲイで兄に惚れてるし、ファスビンとスコセッシの撮影監督として名を馳せるミヒャエル・フェルグラーがカメオ出演してたり、そしてファスビン自身も殺し屋の友人役で登場w

また、ギャング映画三部作の前2作で登場したのと同じ名前のキャラクターやお店、エロ本売りの情報屋という設定が出て来るなど世界線は繋がっていないものの共通点があるのも楽しい。

際立って好きなのはやっぱラストシーン。
残酷で、美しくて、可笑しくて、このシーンだけでもぜひ観て欲しいです、YouTubeにあるので。
ここで流れる歌は作詞がファスビン、作曲がペーア・ラーベン、歌がギュンター・カウフマンといつもの面々なのですが、これは失恋の歌。
バイ・セクシャルであるファスビンは実際に男優のカウフマンに片思いしていたものの失恋した経験があり、わざわざその時の歌を自分で書いてカウフマン本人に歌わせるという狂気の沙汰を行っているw
しかもその後女優のカーフェンと結婚するんだから色々あったんだなぁというのが分かる。
こういう経験があるから「13回目の新月のある年に」のような大傑作を作れるのだろうが。

そういえば長回しに始まり、長回しで終わる映画だなw
今回、英語字幕付きの輸入盤DVDで見たのですが、ファスビンダーに関する著作を出されたり、ファスビンダー映画が日本で観られる機会を作るのに大きく寄与された明石政紀氏の解説ブログが大きな手助けとなりました。
その氏が昨年亡くなっていた事を最近知りました...
残念でなりません。
あなたのお陰で僕はファスビンダー信者になれました。
ご冥福をお祈りします。
ジーナ

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