水無月右京

カリートの道の水無月右京のレビュー・感想・評価

カリートの道(1993年製作の映画)
4.5
"夢は向こうから来てくれるものじゃない。二人で一緒に追いかけよう。"

元麻薬王だったカリート(主人公)の出所後の"男の矜持"と"生き様"を足跡として描いた作品で、"カリートの道"というタイトルになっています。派手なギャング映画ではありません。主人公は、愛する女性と堅気の暮らしで幸せをつかむことを願うも、過去のしがらみがそれを許してくれない・・・というのが本作のあらすじです。

主人公が撃たれ、担架で運ばれるシーンから本作は始まります。結論が来てから回想録形式で進行していくスタイルですね。最初見たとき、"ああ死ぬのか"くらいにしか思いませんでしたが、見終わる頃には、どういう結論が待っているのかわかっていても"頼むから逃げ切ってくれ!"と祈る気持ちで見ていた自分がいたのでした…。

NYの暗黒街で麻薬密売の大物となるまで伸し上がってきた主人公。刑期30年となるところ、親友の敏腕弁護士の尽力でわずか5年で出所します。"すっかり借りができちまったな"

出所した主人公のもとに、かつての仲間が声をかけてきます。ビジネスを復活させ、分け前に預かろうと話を持ちかけてくるのです。しかし彼は断ります。この街を出て、かつての恋人と堅気の仕事をしながら静かな生活を送りたいと思っているからです。ですが、かつての仲間は"自分抜きで美味い汁を吸おうとしている"だとか"腑抜けになってしまった"という受け取り方をしてしまいます。

そうこうしていると、ついに恋人と再会します。ブロードウェーの役者になることを目指していた彼女。今でも夢に向かって頑張っていると思っています。ですが実際はストリップクラブのダンサーになっていました。目の当たりにした主人公はショックを受けます。主人公は彼女に"まさかこのようなことになっているとは思いもしなかった"と言ってしまいます。字面では彼女を責める台詞ではないのですが、この台詞にプライドを深く傷つけられた彼女は彼のことをなじります。すると彼は、彼女の啖呵にそれなりの回答はするのですが、はっきりと言葉にしないものの、彼女を幸せにしてやれていない現状への自責の念と、彼女のことを幸せにしてやりたいと願っていることをそれとなく感じさせ、彼の気持ちを心で感じ取った彼女は彼をなじるのを辞めるのでした。(良いシーンでした)

"男の甲斐性"という言葉を耳にする機会が減っているように思うのですが、男は基本かっこつけたがりのいいかっこしいなので、"何不自由させねぇ"だとか"付いてこい、幸せにしてやるよ"くらい言えるようになりたい人が多いと思うんですね。そして稼ぎについても、相手から尊敬される(愛想をつかされない)やり方で稼ぐことで、尊敬と幸せの両方をつかみたいものなのです。本作の主人公も同様なので、どうしても主人公に感情移入させられてしまいます。

その後、紆余曲折があり、彼は"借り"を返すため弁護士に協力するのですが、結果的にそれがきっかけとなって冒頭シーンにつながってしまいます。

本作が終盤に差し掛かる頃には、祈るような気持ちで画面に見入ってしまいます。あそこでこのようにしてさえいれば・・・だとか、あそこでこのような立ち回りをしていれば・・・などと思ってしまうのですが、自身の生き方に矜持を持ち、それゆえ不器用な側面をあわせ持つ主人公に歯がゆい思いをするとともに、彼が夢を追いかけつかもうとする姿には、見る者全員に深い共感や応援したい気持ちを抱かせるだけのパワーがありました。

本作をまだ見た事のないかたは、一度ご覧になってみてはいかがでしょうか。とても良い作品でしたよ。