YYamada

レヴェナント:蘇えりし者のYYamadaのレビュー・感想・評価

レヴェナント:蘇えりし者(2015年製作の映画)
3.8
【戴冠!ゴールデン・グローブ賞】
 ~オスカー前哨戦を制した作品たち

◆第73回(2015)G.グローブ作品賞受賞
 (ドラマ部門)
◆同年のアカデミー作品賞
『スポットライト 世紀のスクープ』

〈見処〉
①西部開拓時代の過酷なサバイバル!
・『レヴェナント: 蘇えりし者』は、アメリカ西部開拓時代の実在の罠猟師ヒュー・グラスの半生を元にした小説『蘇った亡霊:ある復讐の物語』を原作とする、2015年製作のウエスタン。原題「Revenant」は、「亡霊」「長い不在から戻ってきた人」を差す。
・本作の舞台は1823年、極寒のアメリカ北西部。アメリカ人による毛皮ハンター団は、先住民の襲撃に多大な犠牲を受け、一団の砦の退却に足を進めていた。
・その最中にハンターの先導者、ヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)は、グリズリー熊に襲われ、重傷を負う。ハンター団の隊長は、フィッツジェラルド(トム・ハーディ)、グラスの息子ホークら3名に対し、グラスを看取り、埋葬することを託す。
・しかしながら、フィッツジェラルドは、足手まといのグラスを殺そうとし、反抗したグラスの息子ホークも殺してしまう。奇跡的に一命をとりとめたグラスは、フィッツジェラルドへの復讐心だけを糧に、厳しい大自然の中を生き延びていく…。
・本作のリアリティー高い演出により、第88回アカデミー賞では作品賞、監督賞、主演男優賞など同年最多12部門にノミネート。うち、レオナルド・ディカプリオは、自身初のオスカーとなる主演男優賞を、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、前年『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』に続き、2年連続の監督賞を、撮影監督のエマニュエル・ルベツキは3年連続となる撮影賞を受賞。同年の賞レースを席捲した快作である。

②歴史背景を学ぶ
・本作の舞台はアメリカ独立宣言(1776)の47年後となる1823年。第5代アメリカ大統領モンローにより、ヨーロッパ大陸とアメリカ大陸の相互不干渉を唱える「モンロー宣言」が発表され、英仏の植民地として開発された北米が、ヨーロッパ資本との別離が加速した時期にあたる。
・本作では、インディアン部族のアリカラ族がフランス人以外の白人を敵対視するなど、ヨーロッパ諸国によるアメリカ原住民の弾圧の爪痕も描かれている。
・本作直後の1830年には、第5代ジャクソン大統領にて、先住民を強制移住させる「インディアン移民法」が成立。アメリカは、欧州列強国との戦いから、強引な内政拡大にシフト。以降、有名なチェロキー族の強制移動「涙の道」を含む、先住民への迫害は進み、バッファローやビーバーなどの原生動物は絶滅寸前まで追いやられることになるが、本作はその直前の不安定な時代が描写されている。
・なお、本作でディカプリオ扮する罠猟師ヒュー・グラスは、実在の人物。サウスダコタ州でグリズリー熊に襲われ生還したストーリーも実話であるが、史実ではフィッツジェラルドに復讐を果たせなかったようだ。
・本作では、グラスによる奇跡の生還の旅路を「6週間で80マイル」と想定し、一部フィクションによる演出を行ったそうだ。

③イニャリトゥによる演出
アカデミー受賞監督、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、本作演出にリアリティーを追及。
・自然光での撮影にこだわり、とくに夕方の黄昏時の「マジックアワー」に撮影出来るように、撮影セットを東向き「朝用」と西向き「夕方用」の2種類を用意。
・また、砦のセットは「全方位すべての角度で自然に見える」ことを重視、ハリボタ死角のないセットを構築。
・ディカプリオの衰退と復活の演出に対して、イニャリトゥは時系列に沿った「順撮り」を敢行したが、暖冬により撮影地カナダの雪融けが早く、季節が逆となる南米の高地に移動して撮影が続行。
・ロケ期間は9ヶ月に及んだが、「凍った川へ入水」「生肉を食す」「動物の死体に入り眠る」シーンを実際に実施させる過酷なものであった。
・本作によるディカプリオ、イニャリトゥ、ルベツキのアカデミー受賞は、その執念の結果である。

④結び…本作の見処は?
イニャリトゥ監督の能力の高さを確認出来る作品である。
◎: リアリティーの高い戦闘シーン。序盤のインディアン襲撃は、『1917』以上のクオリティで迫る「ワンカット」演出と「CGクマとのタイマン勝負」は映画史に残る。
○: 映像がとにかく鮮明で美しい。風景画と思えるくらい素晴らしいロケーションと舞台セットをワイド撮影。スマホ鑑賞でさえ、迫力ある映像に仕上がっている。
○: 本作の主要キャストにかかわらず、鑑賞後のレビュー記載時まで「トム・ハーディ」出演に全く気付かず。変わり身のスゴさは、まさに「現代のカメレオン俳優」。
▲:「実力派監督の演出」+「性格俳優の集い」+「圧倒的な風景美」による傑作叙事詩であるが、ストーリーは至って普通。何度も鑑賞したい気持ちにはならないと思う。
×: ポスターがショボい。
YYamada

YYamada