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アメリカン・スナイパーのmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
3.5
イラク戦争で米軍史上最多160人以上の敵を射殺し「伝説(レジェンド)」と呼ばれた狙撃手クリス・カイルの姿に迫った伝記ドラマ。
本人の自伝「ネイビー・シールズ最強の狙撃手」( "American Sniper: The Autobiography of the Most Lethal Sniper in U.S. Military History")をクリント・イーストウッドが映画化した戦争映画で、イーストウッド最大のヒット作。
R15+指定。
原題: American Sniper (2014)

愛国心の強いテキサスの青年クリス・カイル(ブラッドリー・クーパー)は、1998年のアメリカ大使館爆破事件をきっかけに海軍に志願入隊。
特殊部隊ネイビー・シールズに配属され過酷な軍事訓練を受けながら、私生活ではタヤ(シエナ・ミラー)と出会い恋愛関係になる。
2001年の同時多発テロ事件を受けて米国は、2003年大量破壊兵器があると決めつけイラク戦争に突入。2人の結婚式の場で戦地への派遣命令が下り、クリスは出征する。
戦場でクリスは最高の狙撃手として伝説化されるが、やがてPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状も現れる…。

そして、2003年から2009年にかけて4回にわたりイラクに派兵されたカイルは、2013.2.2退役軍人社会復帰プログラムの一環として赴いた射撃訓練先で、強度のPTSDを患っていた帰還兵に射殺される。

~その他の登場人物~
・友だち、ライアン/“ビグルス”( ジェイク・マクドーマン):ムスタファに狙撃され両目の視力を失う。
・仲間、マーク・リー( ルーク・グライムス):戦争に疑問を持つ。
・弟、ジェフ( キーア・オドネル):イラクでの現実に耐えられず除隊。
・アルカイダの狙撃手、ムスタファ( サミー・シーク):元射撃のオリンピック選手
・息子コルトン( マックス・チャールズ)

「この世の中には3つのタイプの人間がいる。羊、狼、牧羊犬だ」
There are three types of people in this world: sheep, wolves, and sheepdogs.

「世の中に悪人なんていないと信じたがる奴がいるが、もし悪人が玄関先までやってきたら、どうやって自分の身を守ったらいいか分からない。そういう人間が羊だ」
Some people prefer to believe that evil doesn’t exist in the world, and if it ever darkened their doorstep, they wouldn’t know how to protect themselves. Those are the sheep.

「弱い者を捕まえるために暴力を使う捕食者がいる。そういう人間が狼だ」
Then you’ve got predators, who use violence to prey on the weak. They’re the wolves.

「生まれながらに攻撃の才能に恵まれていて、群れを守る強力な必要性に駆られる人がいる。稀な血筋で、狼と戦うために生きている。彼らが牧羊犬だ。この家で羊は育てないからな」
And then there are those blessed with the gift of aggression, an overpowering need to protect the flock. These men are the rare breed who live to confront the wolf. They are the sheepdog. We do not raise sheep in this family.

「俺は仲間を守っただけだ。神にだって喜んですべての銃撃について説明できる。俺を苦しめるのは…助けられなかった仲間についてだ」
 I was just protecting my guys, and I… I’m willing to meet my Creator and answer for every shot that I took.
The thing that… haunts me are all the guys that I couldn’t save.
 
「あなたはここにいるけど、本当のあなたはいない。あなたを見て、あなたを感じることはできても、本当のあなたはここにいない」
Even when you're here, you're not here. I see you, I feel you, but you're not here.

「お願い。人間らしさを取り戻して。ここにいて欲しい」
Okay,I need you... to be human again. I need you here.

「戦争で影響を受けない人はいない」
If you think this war isn't changing you, you're wrong.

クリス・カイルが最初に狙撃した相手は子どもを連れ手榴弾を仕掛けていた母親であると自伝の中で書いているが、子供がどうなったのかは触れていないので、映画化に際してイーストウッドが本人に会って話を聞き取り、本人の告白をもとに子供も同時に殺害したシーンに反映させたようだ。
また、カイルは自分が殺傷した相手を「悪人」と呼び、撃ったことに一切罪悪感は無い。(映画にあるように)もっと敵を倒せればもっとたくさんの味方の命が救えたとは書いているようだ。
戦場という過酷な環境を共に戦った仲間への特殊な思いは、帰還後にはより一層深まると推測される。同時に、屈強と思われてもPTSDなどを患い社会生活に支障をきたす帰還兵も多い。
イーストウッド作品の最大のヒット作が戦争映画だということが、アメリカという国を体現しているような気もする。
そして、この種の作品はどうしても、保守派とリベラル派の論争を引き起こす(イーストウッドは共和党支持のよう)。
また、人間を区分けしてステレオタイプに当てはめることは、相手を悪(者)だと断定することに繋がり、戦争や虐殺をする口実(勢力)に利用されてきたことは歴史が証明している。
ところで、カイルはイラク武装勢力から「ラマディの悪魔(シャイターン・アル・ラマディ)」と呼ばれたようだが、イラクの人が、この映画を観たらどのように思うのだろうか?
なお、音楽ではヴァン・モリソンの「Someone like you」や、エンニオ・モリコーネの「The funeral」(エンディングの国葬シーン)が使われている。
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