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闇の中の音楽のhorahukiのレビュー・感想・評価

闇の中の音楽(1948年製作の映画)
3.7
地獄の中の一筋の光

ベルイマン初期作。射撃訓練中に迷い込んだワンちゃんを助けようとした標的係の主人公が誤射されて失明…。音楽家の才能があったのでピアニストの道を進もうとしたけど、盲目に対する周囲の思いやりゆえにかえって孤独に落ち込む…。そんな中で出会った一人の女性と恋に落ちるメロドラマ。

目に当たったわけでもないのになんで銃に撃たれて全盲になるのかは良くわからないけど、初めてベルイマンがダリへの挑戦のような幻想的な夢シーンを採り入れた記念すべき作品。そして初めて自身が脚本を担当していない最初の監督作品。

無数の手によって闇に引き摺り込まれるかのような幻想シーンからは、ホラー作家としてのベルイマンの片鱗が見え隠れ。ただその後については、冒頭の幻想シーンが作中から浮いてしまうくらいに映像的にも真っ当なメロドラマになっているのが拍子抜け。

盲目題材は『インド行きの船』につづき2度目だけど、盲目ゆえに良くも悪くも「人間」として扱われなくなってしまった主人公が囚われる物理的・精神的な「闇」の中で、自身を「人間」として扱ってくれる女性の存在が生きる上での一筋の光となる…といった大筋についても、多少の差異はあれど過去作からの繰り返し。

盲目演出は面白く、主人公と対象を手前と奥で重ね合わせることで「見えない」を演出し、その対象についての主人公の感じている予想と観客の予想を同化させていく中で、観客と主人公を別の知覚でもって答え合わせをさせたり、モノクロゆえの闇を対象に濃く纏わせることで視覚的演出が精神的な隔たりを表現したりと見どころが多い。生粋の演奏ではない音が外から侵入する別の音に掻き消される心的描写や、「光」である女性との階段の柵越し、窓越しの会話を逆手に反復する象徴性も手堅い。

ブルジョワ的な特権階級と(女性の)社会進出、学問、反戦等々、色々と主題に絡ませようとしている中で、興行的不振への恐怖からか、「借り物」的な映画を連発しているこの頃のベルイマン自身の投影なのか、特権階級(そして、その奥にいる大衆)によって自身の「演奏」を決定されてしまう主人公が印象的だった。

初期ベルイマンを見ていると物凄くエヴァがチラつくんだけど私だけかな?モランデル監督・ベルイマン脚本の『エヴァ』ではなくて庵野の方ね。本作とかめちゃくちゃエヴァだと思うんだけど。庵野はベルイマンから影響受けてる可能性があると思う!
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