tsura

アマデウスのtsuraのレビュー・感想・評価

アマデウス(1984年製作の映画)
4.9
高校1年の夏に見たその日。あの時の衝撃は未だに鮮明だ。

オープニング。
サリエリが自殺を図った衝撃の画にドーン!と流れてくる交響曲第25番第一楽章のあの不気味な程マッチングした瞬間から私は虜になってしまった。

今や老いたサリエリが忌み嫌う神父に語る若き時代、宮廷に仕えていた頃に出会ったモーツァルトという唯一無二、神に最も近い存在…
凡庸である事を音で、メロディでまざまざと突き付けられたサリエリの苦悩と怨念めいた嫉妬が絡む告解…否、これは神父というフィルターを通して、目に見えぬ存在つまりは神に対する独白だったのではないだろうか。
それは神嫉妬に絡んだ過去への克服なのか、彼の中で神と対峙できたからなのか、部屋を後にするサリエリはご満悦でモーツァルトの奏でる音色に包まれ、精神病院?の廊下で狼狽る人達を神のように手解く。しかし崇高な位置からまるで平民を見下ろすかのように…。

映画は華々しい宮廷とモーツァルトが次第に困窮していくダークなトーンとのコントラストに加え、サリエリが見せる"一般人"であるが故の怒り地味た心理表現がもう最高に痺れさせてくれる。
なのにモーツァルトの才能には寧ろ惚れ惚れしており、それに翻弄されていくサリエリがなんともまた滑稽。

しかし下品でだらしないモーツァルトの方が余程人間的なのに、紡ぎ出される音色の数々は素晴らしいを超えて神の領域にすら達してしまうのだから、本当に人間とは不思議なものだ。

神を裏切り地上に落とされた堕天使なのに
、どうしてなのか神は矢張り才能を手元に置きたいものなのか…。


ちなみにサリエリが苦悩するのも分かるくらい、映画に散りばめられたモーツァルトの音楽の数々は矢張り素晴らしい。
私自身、この作品がきっかけでクラシック音楽を聴くのは趣味の一つになったのだから笑(私が思うベストモーツァルトとしては色々聴いたけど、シンプルに「フィガロの結婚」の序曲は完璧過ぎて今だに何回も聴いてしまっている)

映画は大胆な脚色やオカルトめいた話を盛りに盛って練られたストーリーではあるが、燦然と輝く音楽と宮廷内のドロドロ加減と人間の表裏が渾然一体となっているこの作品に於いては、モーツァルトの音楽を語る時によく言われる「どの音が欠けても成立しない」という表現こそが上手く当て嵌まるなんとも奇跡の様なデフォルメされた傑作だ。
tsura

tsura