風に立つライオン

ジャージー・ボーイズの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

ジャージー・ボーイズ(2014年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

 2014年制作、クリント・イーストウッド監督によるジュークボックス・ミュージカルの秀作である。

 既に2005年からブロードウェイで上演されて来たロックンロールグループ「フォー・シーズンズ」のミュージカル「ジャージー・ボーイズ」がクリント・イーストウッド監督により映画化されたものである。
 ロックンロールと言うよりもブルー&ソウルのロックコーラスグループといった方がピンとくるかもしれない。
 1960年代・70年代に流行った黒人のR&Bやソウルを白人達のコーラスハーモニーで味付けされたものを指すものだが、所謂オールディーズの流れを汲みつつその後に登場した一群のミュージック・シーンで、本グループやライチャス・ブラザーズなどが代表格である。


 監督のイーストウッドはJazz好きでも有名だが、自らもピアノを弾いたり、Jazz Big band のコンサートを主催したりしている。
 ジャズの帝王チャーリー・パーカーの映画「Bird」やセロニアス・モンクの映画も監督していて音楽への造詣も深い。
 そうした音楽への愛が全編に溢れていて音楽好きには堪らないものがあるが、奥が深いというものではない。
 ただ、時代の変化と色彩が繊細に表現されており、小粋で洒落たトーンが全編に通底していると言っていい。
 そしてむしろこのトーンとタッチはイーストウッド監督の変幻自在振りの一片がよく顕れていて秀逸である。
 特に彼はキャリアの後期からそれまでの映画人生から得た感性が大成されアクションものから文芸もの、音楽ものなどジャンルを越えてクリエイティブですこぶるいい映画を創造している。

 この映画は「フォー・シーズンズ」のメンバー4人がニュージャージー州の貧困地区出身でその下積み期から始まり、デビューしてスターダムに上り詰めるもメンバー間の軋轢もあり、挫折とその後の再生を描いていく物語である。

 ミュージカルと言っても台詞が楽曲になっていきなり歌い出すというアレではなく、楽曲を歌あり、踊りあり、演奏ありで楽しませるスタイルなので入り込み易い。

 メンバーの中でもとりわけ当初リーダーであったトミー・デヴィート(ヴィンセント・ピアッツァ)の素行の悪さはバンド崩壊のトリガーとなっていく。
 観客に向かって彼は言う。
 「こんな暮らしから抜け出すには戦死するかもしれない軍隊に入るか、殺されるかもしれないギャングになるか、それともスターになるかだ。俺達は後の二つを選んだ」と。
 ちなみに彼はコロナで2020年9月に亡くなっている。
 こうしてエポックとなる場面でバンドメンバーが各自の視点でコメントを観客に向けて発する形式が取られている。
 同じ出来事でもメンバー個々の感じ方、受け取り方が違う所謂「羅生門」効果を伴いながら進行することになる。

 強い光は自ずと濃い影を落とす。

 彼らは健全・潔白なバンドではなくマフィアのバックボーンを持つという実は闇を抱えていたという真実も描かれてはいるが、兎にも角にもフランキー・ヴァリに至っては神様から贈られたとしか思えないような唯一無二の歌声と息の合った優しいハーモニーがあったし、とりわけ素晴らしい楽曲によって支えられていたことは間違いない。
 そのことはマフィアのボス、ジップ・デカルロ(クリストファー・ウォーケン)もよく分かっていて彼らをこよなく愛でそして育んでいる。
 この時代はマフィアとの繋がりがあるからといってそう驚く話ではなく、シナトラとてそうだし、日本では美空ひばりだって興行絡みはその筋の方が請け負っていたのである。
 また、あの名優ジョー・ペシが一時期彼らのマネージャーみたいなことをやってたなんて世の中狭いなんて思ったりする。
 
 ストーリーの主軸を為すのはフランキー・ヴァリ(ジョイ・ロイド・ヤング)で、彼の成功と挫折、復活を描いたものと言っていいだろう。

 そしてその彼が如何にして「君の瞳に恋してる」(Can't Take My Eyes Off You)を唄うに至ったかがこの映画のもう一つの主題で名曲誕生秘話でもあると言ってもいいかもしれない。
 この楽曲は「シェリー」同様、ボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)によるものだが、1967年に産まれて以来アンディー・ウィリアムズからローリン・ヒル、椎名林檎に至るまで歌い継がれている名曲である。
 ラストのデトロイトのホテルでのステージ演奏は目頭が熱くなる。

 そしてエンドロールでの出演者全員によるグランドフィナーレが始まる。
 冒頭の主役メンバー4人の街灯下でのアカペラハーモニーがfinger snapから始まるシークエンスはヴァリもこのグループが最も輝いていた瞬間だと吐露していただけあって、実にスタイリッシュで小粋に収まっている。
 そのままMTVに使えるだろう。

 クリント・イーストウッド監督が力まず軽くスタイリッシュに手掛けたジュークボックス・ミュージカルとなっていて音楽愛に溢れた作品で好みの一本となっている。