一人旅

イーダの一人旅のレビュー・感想・評価

イーダ(2013年製作の映画)
5.0
第87回アカデミー賞外国語映画賞。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督作。

1960年代のポーランドを舞台に、自身の出生の秘密を解き明かしてゆく修道女の姿を描いたドラマ。

ポーランド映画史上初めてアカデミー外国語映画賞を受賞したロードムービー風“自己探求ドラマ”の傑作で、モノクロ&スタンダードサイズの映像の中に自身の出生の秘密を解き明かす旅に出た少女の成長と自立を静謐に綴っています。

1962年のポーランド、戦争孤児として修道院で育てられた少女アンナを主人公にして、院長に叔母の存在を知らされたことを発端に、既に亡くなっている両親の痕跡を辿る旅に出た主人公の姿を、光陰のメリハリを利かせたシャープな映像と硬直的なカメラワーク&構図の中に映し出しています。

少女と叔母の旅を通じて現代ポーランドの影を浮かび上がらせた作劇で、少女は旅の過程で両親を巻き込んだ“ホロコースト”の歴史を体感していきます。両親の歴史=現代ポーランドの歴史へと繋がってゆく仕組みです。修道院という閉鎖的環境で何も知らずに育ってきた少女は、生まれて初めての旅を通じて自身の出生や両親にまつわる過去を紐解いていくのです。そして少女は自身の出生を理解していく中で、居場所がなく浮遊していた自己が初めて地に足を着けてゆく感覚を確信します。本作は大国に翻弄された戦時・戦後ポーランドの歴史を浮き彫りにしながら、少女の“アイデンティティーの獲得と精神的な自立”を静かに見つめた作品であります。

修道女としての清貧・貞節な生き方を盲目的に貫いてきた少女は、“自分”を理解するに至って自身の殻を打ち破った行動を見せます。音楽家の若者と一夜を共にしたり、あれだけ嫌がっていたタバコや酒に手を出すのです。修道女の世俗への転落という意味ではブニュエルの『ビリディアナ』(1960)を想起させる展開ですが、本作の場合、少女は全てを受け止めた上で改めて前を向きます。『尼僧物語』(1959)の変形バージョンとも言える結末です。並木道を歩くラストカットにおける少女の表情が確信的で、旅を通じて得た自己とそれに基づく未来への希望が小刻みに躍動する長回しの映像の中に表現されています。
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