本日1月24日は2012年に急逝したギリシャ映画界の巨匠テオ・アンゲロプロス監督の命日。
早いもので七回忌を迎えます。
エレニ3部作を構想していたアンゲロプロスは奇しくも不慮の事故により、第二部に当たる『エレニの帰郷』が彼の遺作となりました。
前作『エレニの旅』とは直接の繋がりはないものの、
本作では同じくエレニという名の女性が時代に翻弄された一代回顧録をイレーヌ・ジャコブが担い、一方の現代では彼女の孫娘エレニの家出に戸惑う映画監督の父親をウィレム・デフォーが演じます。
悲惨な戦争は終わろうとも、長らく続いた冷戦やイデオロギー、国家の隔たりによって散り散りになってしまった人々。
男に愛され続け、別の男を愛し続けたエレニはある意味で故郷を失った時代の放浪者となり、
1953年のスターリンの死から1999年の大晦日まで、戦後20世紀の険阻艱難を渡り歩くことになります。
人の心さえも別ってしまう国の分断線"国境"によって愛し合う者たちは引き裂かれ、
ただ大陸を繋ぐ列車だけが人々を引き合わせ、そしてまた引き離してゆくのです。
一方の現代には平和な日常が溢れつつも、両親の離婚にショックを受け一人で苦悩している孫娘エレニ。
彼女もまた愛の喪失によって心の拠り所である家族、つまり"故郷"を喪失していたのでありました。
旧世紀を生きたエレニと、これから来たる新世紀を生きてゆくエレニ。
この世代の異なる二人のエレニは、果たして失われた真の"故郷"に辿り着けることができるのか。
それは激動の時代を生きたアンゲロプロスが去りゆく20世紀へ向けた惜別の念であり、
時と共に埃の中に埋もれてゆく歴史を彼なりに再び掘り起こそうとした総決算でもあります。
第三部は残念ながら幻となってしまいましたが、構想上では父と娘のストーリーになっていたそう。
しかし家族の意向もあり、その父娘に纏わるシナリオはテオの実娘の手によって形にする時が来るかもという旨を述べていたので、
機が熟すその日をいつまでも待ち続けたいと思います!