アーリー

グランド・ブダペスト・ホテルのアーリーのレビュー・感想・評価

5.0
2023.10.26

ウェス・アンダーソンの代表作。日本で認知が広がったのもこの作品からなんかな。

初のサスペンス風の作品なのでは。架空の国のホテルのコンシェルジュとそのロビーボーイがとある一家の相続権争いに巻き込まれる。殺人容疑をかけられ、投獄されるも脱獄し、事件解決に向けて奔走する。
 主演のレイフ・ファインズにある「M」の印象もあってどこかスパイ物の雰囲気を感じるし、問題を抱えた家族というお馴染みのテーマもあり、戦争という裏テーマも存在する。これまでのオフビートな雰囲気は保ちつつも、サスペンスに満ちたハラハラドキドキ感が見事にブレンドされたストーリー展開。小道具や服装、ホテルや街などの映像としての美しさと、セリフの早さまで管理して作る計算され尽くされたカメラワークは言わずもがな。これまでのウェス・アンダーソンの魅力を存分に発揮しつつ、さらに新しい境地へ踏み入れたことがわかる作品。

ロビーボーイのお話を、その何十年後に彼本人から聞くという手法。そしてそれを聞いたジュード・ロウがまた何十年後かに本にして、それをまた何年後かに女性が読んでいる。物語の中に物語があり、それがはるか先の時代にも届く。この映画はその女性が読み進めていくのを映像と共に追体験するように作られてる。そうやってそれぞれの時代を生きた人間の話が残り、我々が知れるというのは本当にいいものなんやなって思う。
 ロビーボーイのお話はバッドエンド。最愛の妻と息子はプロセイン風邪で亡くなり、師弟愛を育んだグスタフは列車を検閲する軍に銃殺される。プロセイン風邪はスペイン風邪の比喩かな。大切な人は全て戦争に奪われていて、私財すらも国有化されている。グスタフとロビーボーイのサスペンス風ドタバタコメディはハッピーエンドで終わるのに、その後の彼らは戦争に翻弄される。伝聞という形をとることで、ハッピーエンドのその後を作品内で語ることが出来る。そしてこれはトータルで観て愛の物語だと表現される。読後感のような心地よさ、現実に戻りきれない高揚感を感じるのはその演出のため。

本当に面白かった。また観たいと思わせられる作品。間違いなくこの時点で最高傑作。
アーリー

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