horahuki

サタンタンゴのhorahukiのレビュー・感想・評価

サタンタンゴ(1994年製作の映画)
4.3
長回しってホラー的に凄く良い。
だって同じ対象を長時間に渡って見つめ続けることなんて現実ではほぼないわけで、その行為自体が窃視的で異質なもの。被写体とする対象の挙動が自然であれば自然であるほど「見ていること」に対する違和感は増していき、覗き見続けることで観客側の愚劣な好奇心がどんどん掻き立てられていく。それだけで十分に「ホラー」が成り立つのに、そのことに無頓着なホラー映画が最近多すぎる…なんてことを見てて思いました。

レンタルの7日間少しずつ見ていったので劇場でぶっ通しで見るのと感じ方は違うのだろうけど、苦痛だと思ってた7時間が全く苦痛に感じないぐらいに見入ってしまって驚いた。マジで時間的な制約がなかったら一気に見ちゃったと思う。見始めたら止まらなくて、これのせいでついつい夜更かししちゃってた。

7時間越えで150カットしかないという驚異的な長回しの連続が勿論見どころで、映像が語るというか、通常ならカットして次の場面へと向かうような箇所でも建物を突き抜けて窓からの風景、闇を跨ぎ豚と雨に落ち着く、この結果へと至るまで観客の中での反芻が余韻になり、感情のリアリティと重みを上乗せし、カットを割らない表情の変遷が地続きの現実味を突きつける 役者はハードル高いだろうけど、これ以上にない「語り」なのは間違いない。固定されているからこそ、はためき等、画面の中の少しの変化に重みが生まれ、意図した・していないにかかわらず意味が勝手に付与されていく。

12章構成の本作は6歩進んで6歩戻るというタンゴの形式を踏襲しているのは有名な話で、物語が進んだかと思えば章が変わり過去に遡った別視点の物語が進行する。

舞台は共産主義下のハンガリー。本作の展開は、1948年以降、強制的に農業の集団化を行おうとしたハンガリーの悲惨な試みに向かっているように思える。冒頭で見せつける「脱出」が許される牛の自由さと脱出などできない人間たちの不自由さを対比させ、「貧困の雨」に対して身を守るすべなど持たない村人は傘もささずに道を行く。

物語は、ハンガリーの広大な平原にある廃墟のような村で、3組の男女とアル中の医師がそれぞれ脱走を計画したり、裏切りあったり、酒場でバカ騒ぎしたり、ネコをリンチしたりしてるうちに、金儲け話を持ち込んだ偽の救世主に騙されるというもの。ハゲとかデブとか小汚い奴だらけな村人に対して詐欺師はスマートなビジュアルで、外見という上っ面の綺麗さに絡め取られ言葉巧みに内側に潜む泥沼に陥っていく過程が描かれる。ハンガリーの実情は詳しくないけれど、このあたりに強制的な国家権力によりむしり取られた持たざる者たちの悲哀が現れているのではないかと思った。これは時間にビビらずに見ておくべき傑作だと思う。
horahuki

horahuki