Sari

ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲインのSariのレビュー・感想・評価

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ニコラス・レイ監督の幻の遺作長編。

ニコラス・レイといえば、『大砂塵』(1954)、『理由なき反抗』(1955)しか知らねば、本作を見れば衝撃を受けるかも知れない。
60年代には映画製作からのリタイアを余儀なくされた。60歳を過ぎた1972年、ニューヨーク州立大学に講師として招かれ映画作りを教え始める。そこで学生をキャスト、スタッフに起用して製作したのが本作『We Can’t Go Home Again』であり、一年以上をかけて作り上げた。

ベトナム戦争が大きな影を落とす1973年当時のアメリカ社会の混沌とした状況を背景に、あらすじめいたものはなく、最多6台の映写機で投影したマルチスクリーンによるイメージ群が重なっては分裂する。
複数のイメージが収斂しないまま、パラレルに走る実験性の濃い映像はビデオ・アートの影響が強く、後のゴダールのビデオ作品はもとより、電子的に色彩を加工した映像は松本俊夫のビデオ作品を想起させる。(松本俊夫:日本の前衛的記録映画、実験映画、マルチ映像、ビデオアートの草分け的存在として活躍。)
尚、インスタレーションの趣きもあるが、本作は「映画」としか言い表せない力も宿している。劇中で、アイパッチを装着している理由を学生たちに問われるレイ監督が、’虚飾’であると答える。撮影が一年以上にも及び、心身状態も順調ではなかった。資金が底をつくたびに借金をしながら、在るのは映画への情熱、ある種の賭けであった。

73年のカンヌ映画祭で未完成な状態で上映された後、顧みられない不遇の作品だったが、76年のレイ最晩年の編集版をもと2011年にデジタルリマスターされ、2013年に日本で劇場公開された。
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