かたゆき

ムード・インディゴ うたかたの日々のかたゆきのレビュー・感想・評価

2.0
フランス、パリ。
蓄えられた豊富な財産で悠々自適な生活を送るコランの家には、不思議なものが溢れかえっていた。
蛇口を捻ればは水の変わりにうなぎが飛び出し、呼び鈴を鳴らせばベルから足が生えて部屋中を這い回り、小さなネズミ人間がそこらじゅうを闊歩する……。
でも、それはちっとも不思議なことじゃない。
何故ならパリ全体がそんな摩訶不思議な現象で溢れているのだから――。
ある日、そんなコランは友人のパーティーで出会った美しい女性クロエと瞬く間に恋に落ちるのだった。
様々な困難を乗り越えてやがて結ばれる2人。
だが、クロエの肺に睡蓮の種が迷い込んだことからそんな幸せいっぱいの彼らの生活に暗い影が忍び込む……。
マジカルでポップ、独創的でシュール、そんな唯一無二の摩訶不思議な映像で描き出される、ストーリー自体はいたってシンプルなラブストーリー。

僕のこよなく愛する『エターナル・サンシャイン』を撮ったミシェル・ゴンドリー監督が新たに挑んだのは、いかにも彼らしい冒険心に満ちた前衛的作品でありました。
うーん、この監督の作品って観れば観るほどやっぱり「エターナル~」は奇跡の一品だったんじゃないかと思っていたのですが、本作を鑑賞して残念ながら僕の疑念は確信へと変わっちゃいました。

何が駄目かって、この全編を彩るまるで監督が自分のセンスをひけらかすような映像の数々に必然性が一切感じられないこと。
たとえば「エターナル~」では、そのシュールな世界観は脳内記憶消去というプロセスの中で主人公が見る観念的世界を映像化したという大前提があったからこそ素晴らしい作品となりえていたのです。
ところが本作、その基本となる前提が成立していないから一向に作品世界に入り込めません。
それに監督の独り善がりとも思える、意味不明な映像も多数あって僕はちょっぴりイライラさせられちゃいました。
例えるならアリスの出てこない不思議の国の物語を延々と見せられただけ。
観客が感情移入できる登場人物が一人も出てこない、なんとも締まりの悪い作品でありました。
ミシェル・ゴンドリー監督、前衛的な作風へとアグレッシブに挑戦するのもいいけれど、今度はちゃんと中身のある充実した作品も撮ってもらいたいものです。
あなたはかつて、『エターナル・サンシャイン』という傑作を創った人なのだから。
かたゆき

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