かたゆき

セッションズのかたゆきのレビュー・感想・評価

セッションズ(2012年製作の映画)
3.5
「僕が裸になるとき、たとえば着替えや入浴の介助を受けるとき、周りの人はいつも服を着ていた。それがいま、裸の君と一緒にベッドにいるのが僕は本当に不思議なんだ」――。

マーク・オブライエン、38歳。
子供のころに患ったポリオが原因で全身に麻痺という障碍が残ったものの、電動ストレッチャーで大学に通い、今では詩人兼ジャーナリストとして立派に生計を立てている。
とはいえ、彼は一日の大半をベッドの上で過ごし、ヘルパーの介助なしでは外出することも出来ず、一人では食べることはおろか排泄の処理をすることも出来ない、
そして、もちろん「童貞」。
そんな彼がヘルパーの若い女の子に失恋したことをきっかけに、とある決心をするのだった。
「死ぬまでに、人間として一度でいいから誰かとセックスしてみたい!」
障碍者仲間のつてを伝って、セックス・セラピストをしている人妻シェリルとコンタクトを取るマーク。
彼女との計6回のセッションを通じて、彼は初めて人間としての喜びを全身で味わうのだった……。
重度の障碍を抱える実在の詩人が著した体験記を基に、障碍者と性という極めて重いテーマをほのぼのとした軽妙なタッチで描いたヒューマン・ドラマ。

こういう主題を扱うのって、結局「障碍者だって一人の人間なんだ!」という誰も反論しづらい説教じみたお話になるか、変に露悪的で悪趣味になりがちな極めてリスクの高い選択だと思うんです。
でも、本作ではそんなリスクを監督の絶妙のユーモア感覚で飄々と取り払い、素直に笑って泣けるヒューマンドラマの佳品へと仕上がっておりました。

とにかく主人公マークが魅力的で、素直に彼の「童貞卒業」を心から応援したくなるんですよ!
「神も君なら許してくれるだろう」と仕方なく応援してくれる神父さんや、無表情に淡々と手助けしてくれる中国人の女性ヘルパー、そして何より深い慈愛でもってマークとセックスしようとするセラピスト……。
そんな個性豊かな登場人物たちも物語を優しく彩ってくれています。

そして本作が何より優れているのは、〝障碍者と性〟という問題から出発しながら、次第に〝性欲と恋愛〟という人間本来の普遍的なテーマへと見事に昇華させたところでしょう。
セックスから始まる恋愛、恋愛の過程で交わるセックス、恋愛感情のないコミュニケーションとしてのセックス。
いずれにせよ互いの身体と温もりを必要としあうことで自分の価値を確認したいと願う男と女…。
軽妙でありながら、人間のコミュニケーションのあり様を優しい目線でもって見つめた良品。
お薦めです。
かたゆき

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