Sari

恐怖と欲望のSariのレビュー・感想・評価

恐怖と欲望(1953年製作の映画)
3.8
キューブリックの劇場映画デビュー作。

1953年にキューブリックが自主製作で作り、アメリカでは公開したが、後にキューブリック自身がフィルムを回収、封印してしまった作品。

舞台は、何処とも知れぬ戦場。飛行機が墜落し、敵地に取り残された4人の兵士たち。上官は、筏を作って河を下り、味方の陣地に逃げ込もうとするが、このまま敵のアジトを奇襲しようという者もいれば、恐怖が高じて異常な行動をとる者も現れる。

一方、敵の上官も、不毛な戦いの中で虚無感だけをつのらせている。戦場という極限状況に置かれた人間の心理。それを、さながら狂った歯車が無秩序に回転する様子を見せるかのように、冷ややかに描いていく。例えば、4人の兵士は出会した1人の美女を見つけて人質に取るが、見張りの兵士と木に繋がれた女の駆け引きをカットバックで見せるカメラ。この美女の顔のクローズアップが印象的。殺害シーンにおいては、シチューを散乱させグロテスクさを表現する。

完璧主義者キューブリックが封印したと言うだけあり、確かに演出は力不足という感もなくは無い。編集の流れが悪く、理論先行で作っている感じも受けるが、どこを切り取ってもキューブリックというほかない、強烈な個性が刻印された作品である。
Sari

Sari