今年亡くなった作家の田辺聖子さんの著書『セピア色の映画館』によると、一番好きなバート・ランカスターはこの『成功の甘き香り』だという。
『殺人者』でデビューして以降、駄作知らずで常に名作・話題作に出演し続けたバート・ランカスターではあるが、本作はそんな華やかなこの人のフィルモグラフィの中でもベストアクトと言っても過言ではないと思う。
ショービジネス界の暗部を描いた傑作。監督は私も大好きな作品『マダムと泥棒』を手掛けたアレクサンダー・マッケンドリック。
舞台はショービジネスの街ニューヨーク。プレス・エージェント(役者やバンドマンから依頼された宣伝記事を新聞等にのせる仕事……今でいうパブリシストですな)のファルコ(演:トニー・カーティス)は焦っていた。
ボスである大物劇評コラムニストのJ・J・ハンセッカー(演:バート・ランカスター)が自分の記事を全くコラムに掲載してくれなくなったのである。
実はJ・Jには齢の離れた妹のスーザン(演:スーザン・ハリソン)がおり、普段は非情な性格のJ・Jも彼女のことは溺愛していた。
その妹が人気ギタリストのダラス(演:マーティン・ミルナー)と交際していることを知って怒ったJ・Jはファルコを使って二人の仲を別れさせようとしたが失敗。その報復としてファルコを干そうとしたのである。
依頼人たちからは詐欺師呼ばわりされて焦るファルコは、今度こそ二人の仲を裂くために卑劣な手段を使う……。
はっきり言えばシスコン兄貴の暴走劇なのだが、とにかくJ・J・ハンセッカーのキャラクター造形が凄く、全篇に渡って緊張の糸がピーンっと張った内容だった。マッチョなアクションスターだったランカスターが眼鏡とスーツでビシッと決まったインテリヤクザを見事に演じている。
そんな恐ろしい人物にくっついて成功を夢見ようとする小物のトニー・カーティスにも哀れさがあった。
エルマー・バーンスタインの音楽もクールで格好よく、鑑賞後もずっと耳に残る名スコアである。
■映画 DATA==========================
監督:アレクサンダー・マッケンドリック
脚本:クリフォード・オデッツ/アーネスト・レーマン
製作:ジェームズ・ヒル
音楽:エルマー・バーンスタイン
撮影:ジェームズ・ウォン・ハウ
公開:1957年6月27日(米)/1957年10月24日(日)