Jeffrey

裁判長のJeffreyのレビュー・感想・評価

裁判長(1918年製作の映画)
3.5
‪「裁判長」‬

‪冒頭、上流階級の青年カール・ヴィクトル。
父からの教え、上流階級の娘、結婚、約束、30年後、職務と自己、罪の意識、死刑、宣告、独房、数年後、結婚、自殺、今、ゼンドリンゲン家の一族の物語が過去と現在を交差する…

本作はカール・Th・ドライヤーが初監督した作品で、1918年製作の作品だが時代錯誤的と言う印象を受けたとの事で、実際に上映されたのは翌年だそうだ。

フランツォスの原作を脚本化し映画化した作品で、この度紀伊国屋から発売されてるDVDのクリティカルエディションを購入し、初鑑賞したがこれがデビュー作とは思えないほど濃厚な映画であった。

そもそも持ってきた題材が因果話と言うのも中々興味深いし、まさかのメロドラマ且つとある一族の運命と男女の過ちが齎す悲劇を85分と言う尺に収めた作品である。

冒頭から引き込まれる。

まず裁判長の本が開かれる所から開始され、若き日の主人公と使用人の女性との恋愛が語られ、このプロローグの最後においてヴィクトルの遺言として一族に不向きな女性との恋愛を固く禁じる事を息子に告げる描写がある。

そして時は30年後を映し出す…

オレンジ色に着色されたフィルムが写し出される。

そこには主人公である青年や子供の描写、松明を持った大勢の進行場面に赤く燃える炎(モノクロベースの映像に)が色付けられている。

そのシークエンスの神秘的で圧倒的な演出には驚かされる。

さて、物語は裁判長になった男が法律家としての威厳と尊敬を保つか、子供殺しの罪で死刑になる事が決定された自らの娘を助けるかの究極の2択を選ぶ話を彼らしい重層化した手法で3つの世代に渡る因縁話をフラッシュバックで魅せると…簡単に纏めるとこうで、ネタバレになる分、この先は話せないが、幸せを見届ける為の代償は……。

主に3人の登場人物の語り部分が仕分けられ、4人目は存在しない何者かが語ると言う構成である。

多少、難解に感じるがそこまで難しいわけではない。

やはりドライヤー作品でこうまでメロドラマ調の作風があった事に驚く。そもそもこんな小作にスウェーデンのゴットランド島にまで出かけ、ロケーション撮影しているのに驚く。

というのもデビュー作でここまで金をかけられるノーディスク社が如何に彼を見込、信頼していたかが垣間見れる。

ここで少しセンシティブな表現で例え話をするが、本作は裁判長としての自分の名誉を犠牲にしてまで自分の娘を死刑から助けるかをテーマの1つにしているが、これはマスメディアや野党から批判をくらってでも憲法9条の改正を進めるべく、与党の議員が次の選挙で落ちるかもしれないこの複雑で難しい(この件を黙殺して地元の人たちに尽くして議員をまっとうに持続させて、当選を狙い安定な生活"金儲け"をする)選択をできるかと重ねて観てしまった…。

とりわけ絵画の図像のようなショットが目立ち絵画的構成はドライヤーの作品の代名詞といっても過言ではない。

デビュー作からこのような美意識を兼ね備えていたとは驚くばかりである。

この映画の好きなところは、最後の最後に改めて舞台が異郷のプランテーションに移る場面だ。

‬ ‪本作が制作されてもう100年以上経っているが、サイレント時代の作品の秀作だと思う。まだ彼の作品で見れてないのが短編集と「牧師の未亡人」「グロムダールの花嫁」「二人の人間」だ。短編集はDVDであるのだが、残りの3作品は国内未発売の様で、いつ見れるか不明だ…。‬
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