Junichi

くちづけのJunichiのレビュー・感想・評価

くちづけ(2013年製作の映画)
4.4
「忘れないわあなたの声、やさしい仕草、手のぬくもり。忘れないわくちづけのとき。そうよ、あなたの、あなたの名前」

【撮影】8
【演出】8
【脚本】9
【音楽】9
【思想】10+

とあるYoutuberの攻撃的差別発言を目にし
(当該人物の収益になるため動画は視聴しません)
この作品のことを思い出しました

生命倫理の授業で毎年用いている映画です

原作は東京セレソンデラックスの宅間孝行の舞台戯曲
宅間氏は映画作品でも主人公「うーやん」を演じます
宅間氏が新聞記事で
とある哀しい事件を読んだことから制作されたものです

ホームレスになってしまう人には様々な人がいます
望んでなる人もいれば
図らずもなってしまう人もいます
そして先天的な要因からなってしまう人もいます

映画『ノマドランド』で主人公が
「ホームレスではなくハウスレスだ」
と言っていたのが印象的でした

人間存在の多様性への感性を鍛えるには
想像力を創造的に動かせること
心身共に健康であることは普通のことではなくて幸運であるということ
知識を得ることを目的とした勉強ばかりしていると
こうした想像力が破滅的に減退します

勉強ばかりしていると頭が悪くなります

知らないこと(無知)は罪ではありません
しかし
「知らなかった(無知)ので許してください」と
無知であったことを言い訳に使う
その賢しさ、姑息さ、傲慢さは大罪です

かの34歳に問われているのは
【知】ではなく【徳】という倫理的生き方です

事程左様に
(ネオ)リベラリストの傲慢さが顕在化しています
社会的に成功している(収入の高い)者は
こうしたステイタスをすべて自分の努力によって手に入れたと思い
成功していない人(収入の低い人)は努力が足りない(自己責任)と
ためらうことなく差別し、貶め、存在まで否定します
ユダヤ人問題やアジア人差別など人権意識が高いにもかかわらずです
この事情は
今年(2021年)翻訳された
マイケル・サンデル著『実力も運のうち』(鬼澤忍訳、早川書房、2021年)に詳しいです

8月15日は本来
心穏やかに過ごしたいもの
自分は普段とても物腰の柔らかい心穏やかな人間ですが
Filmarksの映画レヴュという形を借りて
少しだけ意見を書かせていただきました

さて映画(笑)

本映画
主演の宅間孝行だけでなく
マコを演じた貫地谷しほり
マコの父(愛情いっぽん)を演じた竹中直人
田畑智子、橋本愛、麻生祐未、平田満など
いずれも熱演しています

舞台はほぼグループホーム
原作の舞台劇の雰囲気を損なうことなく映画化しています
台詞の応酬やギャグなど
ところどころ舞台を連想させます

前半はコメディ
グループホームを運営する医師(平田満)に
ホームレスについての話を愛情いっぽん(竹中直人)が始める中盤から
物語は転調します

この作品の結末が幸福なのか不幸なのか
自分にはまだ分かりません
どうしても親の立場(愛情いっぽん)で観てしまいます
「自分だったらどうするか」を考え続けたいと思います

長いレヴュになってしまい申し訳ありません
どうぞ心穏やかなお盆をお過ごしください(^^)/
Junichi

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