アニマル泉

未来への迷宮のアニマル泉のレビュー・感想・評価

未来への迷宮(1935年製作の映画)
4.5
ロシア革命後に登場したアブラム・ローム監督のアヴァンギャルドな作品。ブルジョワ階級の医師の妻と若者の三角関係を描き、上映禁止になった。
冒頭、白い階段に木の葉の影が揺れる、湖、マーシャ(オリガ・ジズネワ)が真ん中を泳いでいく、その波紋、木々の葉の美しさ、覗き見している居候フョードル、ただならぬ緊張感だ。白い階段や壁、そこに落ちる影の揺らぎは全編に頻出する。映像が力強い。シンメトリーな構図、マーシャと若者グリーシャ(ドミトリー・ドルリアク)が散歩して遠ざかる並木や幻想の巨大セットのシンメトリーは圧巻だ。ロシア・アヴァンギャルドを想起する大胆な構図、門扉ごしのグラフィカルな構図、シルエットの活用など力強いカットが並ぶ。
本作には関係ショットがない。人物の位置関係や距離感が判らない。そして切返しがない。しかし医師ユリアン(ユーリー・ユリエフ)がグリーシャに会いに行く妻マーシャを「戻って来いよ」と送り出す決定的な場面で初めて切返す、そしてマーシャがグリーシャと見つめあう場面で切返す。
幻想シーンのセットが圧巻である。ハリウッド・ミュージカル映画かドイツ映画を彷彿させる巨大でシンメトリーなセット、垂直の階段、そしてセットが周りから水で囲まれて島になり噴水が湧き出す。唖然となる。
バレエ劇場のバックヤード、長い横トラックで踊り子たちが見えてくる、舞台袖に出ると今度は奥へ一直線、常軌を逸した長回しワンカットだ。そしてクレーンアップで三階へ。手術室に医師団が入って来るのを延々とトラックバックして、患者が運び込まれるまでのワンカット、手術室のセットも巨大だ。アブラム・ロームは無用に過剰である。
ブルジョワ医師は無階級社会の矛盾ではないか?平等社会において天才の権力は認められるか?平等は静止であり競争は運動である。といったマルクス主義の論点が若者たちで議論される。
パイ投げが突然起きる。グリーシャの友人ニコライが円盤投げでパイ皿を次々とフョードルに命中させる。アブラム・ロームは間違いなくハリウッド映画を見ている。ミュージカルやスラップスティック・コメディ、ソフィスティケイケッド・コメディが好きなのは間違いない。
ラストはマーシュの「ひとつ提案があるの」三連発からグリーシャとの別れのキス、待ってるユリアンの元へマーシュは約束どおりに戻り、腕を組んで階段を昇っていく。
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