Kumonohate

小さい逃亡者のKumonohateのレビュー・感想・評価

小さい逃亡者(1966年製作の映画)
3.5
1966年の日ソ合作映画。両親がおらず叔父とともに流しのバイオリン弾きをして生計を立てている10歳の男の子が、実は父親がモスクワで生きていると知り、単身、ソ連に密入国してモスクワを目指す⋯という壮大なお話。衣笠貞之助、小国英雄、宮川一夫、宇野重吉、京マチ子、船越英二、宇津井健と、日方スタッフ&キャストはやたらと豪華。ソ連側も相当なモノらしいがよく知らない。

基本設定が似ているだけに、どうしても名作「ボクは五才」(幼児が父を探して高知から大阪まで、単身、旅する話)と比較してしまうが、アチラが物語や設定にリアリティを持たせるべく、色々と工夫を凝らしていたのに対し、コチラはどうしても設定と筋立てに無理がある。

しかしながら、ナホトカ、ハバロフスク、イルクーツク、サマルカンド(当時はソ連領)、レニングラード(現サンクトペテルブルク)、モスクワ、シベリア鉄道、タイガ(「デルス・ウザーラ」ばりの)、木材輸送の巨大筏(筏の上で生活しながら川を下る)など、当時、鉄のカーテンに遮られていた向こうの情景がふんだんに登場、現在でもじゅうぶん楽しめるこれらのロケーションには一見の価値がある。

また、舞台が日本からソ連に移ってからのパート(ソ連側のクルーが担当したパート)も丁寧に作られていて、さすが国を挙げて映画芸術を高めていった国だわいと感心させられる。音楽もやたらと哀愁を帯びた名曲なのだが、これに関しては、日本人感覚的には少々物悲しすぎるかもしれない。

何より、設定や筋立てに少々無理があろうと、作品に多少のプロパガンダ的意味合いが込められていようと、いたいけな少年に優しく接する日ソのオトナたちと、彼等に見守られながらも逞しく旅を続ける少年と、その結果彼を待ち受ける運命が織りなすドラマは感動的である。
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