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ミリオンダラー・ホテルのslowのレビュー・感想・評価

ミリオンダラー・ホテル(2000年製作の映画)
4.8
ホテルに住む個性的な人々。その中に知的障害を持つトムトム(ジェレミー・デイヴィス)の姿もあった。彼は、同住人で心を病んだエロイーズ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)に想いを寄せており、その挙動に一々見惚れてしまうほどの熱の入れようだった。ある日、住人達にとって大きな出来事が起こる。トムトムの親友でもあった男が、ホテルの屋上から落下し亡くなったのだ。死の真相を探るべくFBI捜査官スキナー(メル・ギブソン)がホテルを訪れるのだが、住人達は捜査協力もそこそこに、ある計画に沸き立ち始めていた。

地上から見上げたビル群。高低差に比例するファンタジー。奥行きを生み出す音楽と光。どこから観ても、どこを切り取っても心地が良い。もうオープニングからヴィム・ヴェンダースのセンスが炸裂していた。無邪気な湿度と表情で魅せるジェレミーとミラ。画面にひょっこり現れたり、もぐもぐと食べ物を頬張ってみたり。人によっては受け付けない演技かもしれないけれど、個人的には心擽られっぱなしだった。あらすじはサスペンス。見所はこの2人の愛。

何が待っていようと、瞬間を全身全霊で感じること。それは羨ましくもあるけれど、純粋で妥協のない生き方というのは恐ろしく無防備で傷付きやすい。でも、初めての衝動は冷静さと引き換えに世界を鮮やかに見せるなんてこと、正直忘れかけていた。いつの間にか擦れて鈍ってしまった感覚の分、この映画を愛しく懐かしいものに感じたのかもしれない。物語を見届けた空は、暫く現実に戻れずにいる観客までも受け止める。遠ざかるダウンタウンの街の中に、小さくなっていく宝箱。それがミリオンダラー・ホテル。
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