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私はゾンビと歩いた!のhorahukiのレビュー・感想・評価

私はゾンビと歩いた!(1943年製作の映画)
4.2
看護師の仕事で、とある島の大富豪の屋敷に住み込みで働くことになった主人公。看護するのはその屋敷の主人の奥さんジェシカ。ジェシカは熱病で神経をやられてるらしく自分の意思では何もできず、受け答えもできない。でも、その島のブードゥー教に伝わる方法を使えば治せると知った主人公がジェシカを連れてブードゥーの聖地に行く話。

ロメロ以前のゾンビ映画で多分一番有名な傑作。
ロメロ以降の現在一般的なゾンビとは全く違うブードゥーゾンビが出てくる作品で、ブードゥー教の術で蘇った死者がゾンビと呼ばれます。束になって人を襲うこともなければ、人を食べたりもしないし、感染増殖もしません。ただそこにいるだけです。

物語の内容は、屋敷主人とその弟とジェシカによる三角関係な愛憎劇です。その愛憎劇にブードゥーゾンビの要素を足すことで、作品全体を不気味で物悲しいものにしています。ホラー映画としての恐怖だけでなく、愛する者がゾンビとなる悲しさも描かれてます。

そして根底にあるのは、この島に昔から根付いている奴隷制度。奴隷制度がなくなった今でも、子供が生まれると喜ぶのではなく、泣くという風習がこの島には残っています。それは、奴隷として生きるのが辛く悲しいから。こういうところから、心のないゾンビというものが生まれたんだろうと思います。

主人公がジェシカを連れてサトウキビ畑を通りブードゥーの聖地に行くシーンが不気味でかつ幻想的で1番の見せ場になっています。そんな中で出会う門番ゾンビのカラフォーの異様さは凄まじいです。襲ってくるわけでもなく、ただ立っているだけなのに感じる恐怖。異界に足を踏み入れたことを実感させるシーンになっていてかなり不気味ですね。

作品全体を通して、格調高い古典怪奇小説のような雰囲気の映画です。ゾンビ好きな方だけじゃなく、そういった雰囲気のホラーが好きな方にはオススメです!

R2.11.5 再鑑賞
4.0→4.2
以前見た時よりも面白く感じた。事実から漏れ出てきたパーツを掻い摘んで見せられてるかのような掴めるようで掴めない彼方側。海辺を歩く中で、ふと心の奥底にあった忘れかけたものが漏れ出してきたかのような記憶の断片を覗き見るかのような感覚の体現。吹き荒ぶ風の音と背丈ほどもある道を行く異界への段階を追った深化の映像に、久々に純粋な恐怖を感じた。
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