垂直落下式サミング

シェラ・デ・コブレの幽霊の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

シェラ・デ・コブレの幽霊(1964年製作の映画)
3.7
探偵ナイトスクープで存在だけは知っていた。番組内で麒麟のホームレス中学生だった人がフィルムを探しだした幻の映画!夜更かし初心者だったころの思いでは色褪せないものなのだ。権利関係が曖昧であるから、上映もディスク化も出来ないらしいって説明だったけれど、ついに配信で一般人にもお目見え!ありがとっ!
上空から町を撮した映像から始まり、その向こうから波が押し寄せてきて文明を飲み込んでいくようなアニメーション切り替えでビーチのシーンに移るのが、当時としてはなかなかの映像のマジックですから、力の入った職人芸を感じる。
他にも、台の上に立てられた黒い小物に位置が重なるように浜辺に立つ黒い服のオンナの映像に切り替わったりと、ハッとするようなシーンの繋ぎかたがうまい。
「怖すぎて上映禁止」とか「ジャパニーズホラーに影響を与えた」とか、まことしやかに語られるエピソードに尾ひれがついて、みただけで呪われるような暗黒映画な気がしてしまったけれど、確かに幽霊は怖いし、ドラマとしても上質だけれど、当時としては良くできた怪奇オカルトものってだけで、話題性を越えるようなポテンシャルがあるかというと…。
ババアのオバケと霊媒師がイキイキと出てくるところや、名家の母親の死に端を発するミステリーであるのに加えて、善の霊能力と、悪の詐欺師と、恨みつらみの悪霊の三つ巴の対決ものである点も、呪術の異種格闘技っぽくてみていて楽しい。
特に、奥様が雇う霊媒師の男の人が、自分はホンモノの霊感を持っているのだと説明するところに、絶妙なリアリズムがあっていい。その根拠ってのは「本職は建築士ですから食うには困らない」っていうもので、この道一本のプロじゃないのに活動しているのは善意からだし、原因は他にあるんだったらお金はいただかないってスタンスだから、すごく誠実なお人に見えてくる。
しかも、本職建築士だから、このお屋敷の市場価値が云々みたいな現実的なはなしで旦那さんを説得にかかることもできる切れ者。ボク霊媒師なんすよってだけでもう信用ならないはずなのに、これはうまく胡散臭さを消しているなあと感心した。
微妙だったのは音楽の使い方。幽霊接近BGMが、ほとんど一種類しかないのに何回も何回も感覚を開けずに繰り返されるのが良くない。あんまり頻繁におなじのを聴かされると、興を削がれる。
そんなことより、女優さんの美脚。育ちのいいおすまし座りもいいけど、取り繕うのをやめて見苦しくないくらいの力の抜け具合でソファーに腰かける姿も乙なものでした。