ルサチマ

アルプス颪のルサチマのレビュー・感想・評価

アルプス颪(1919年製作の映画)
5.0
一年前、自作を撮影するにあたって『アルプス颪』を頭に刻むこむようにしていた。サイレントの形式を現代でやりたいということとは違って、且つ今作の中でシュトロハイムが辿ることになる末路のドラマに対する気の利いた応答とも違って、表現そのものについて思考する手がかりとして、映画を制作する道標のようなものとして、100年以上もの時を隔たれたシュトロハイムなり、サイレント期の映画に(畏れ多くも)求めていた気がするし、これからもそうなるだろうなとも思う。もちろんシュトロハイムの映画としては『愚なる妻』や『グリード』と比較した時にデビュー作である今作の方が作家性が発揮されてるとは言い難いのだが、それでもシュトロハイムの映画の中で、それだけでなくサイレントの中でもこの映画は最も偏愛してしまう一作で、何かここに全部あるんじゃないかとさえ思ってる。

もちろん、扉を隔てた異なる空間を繋いでいくクロスカッティングのモンタージュや、オーストリア版で見られる最初の登山シーンとオーストリア将校と人妻との聖地巡礼のクロスカッティングなど、ムルナウの『吸血鬼ノスフェラトゥ』をも先取りする編集は見事だし、鏡の反射を使用したワンカット内での過去への回想と現在への回帰を捉えた合成撮影も孤高の表現としか言いようがなく、人妻がシュトロハイムに囚われた夢を見る悪夢的な主観撮影(そしてそこでシュトロハイムの手だけを映し出す気味の悪さ!)は今なお戦慄し続ける。技法的な洗練さと野蛮さを兼ね備えた最高峰のハリウッド古典映画であることは疑いなく、然し単に技術を超えたところで当時の第一次大戦後に反ドイツ感情が高まる中でこの映画をハリウッドで撮影しようと持ちかけたシュトロハイムの覚悟にこそ震撼する。
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