櫻イミト

アルプス颪の櫻イミトのレビュー・感想・評価

アルプス颪(1919年製作の映画)
3.5
「グリード」(1924)がなかなか面白かったのでシュトロハイム監督デビュー作を鑑賞。自ら書いた脚本をユニバーサルに売り込み、ハリウッド初の監督主演で映画化。これが大ヒットし一気に一流監督の座を確立した。ダニエル・シュミット監督がオールタイムベストの一本に挙げている。※長編での監督主演はチャップリンの初長編「キッド」(1921)に先駆けている。

原題は「Blind Husbands (盲目の夫)」。恋愛サスペンス風味の人間ドラマ。

東アルプス登山口の村は観光客で賑わっていた。そこに向かう1台の馬車には、アームストロング医師夫妻、そしてオーストリア軍服に身を包んだステューベン中尉(シュトロハイム)が乗っていた。美しい妻に微笑みかける中尉。怪訝そうにする妻マーガレット。山小屋に到着し、妻に素っ気ないアームストロング医師の陰で、中尉によるマーガレットへの誘惑工作が始まる。。

まずはシュトロハイム演じるニヒルで女たらしの軍人キャラが突き抜けていて良い。クセの強い悪役の魅力で映画を引っ張っている。

※シュトロハイムのプロフィール
オーストリアで貧しいドイツ人の両親の間に生まれ14歳で渡米。スタントマン等の仕事を経て1914年(19歳)に軍服デザイナーとして映画界入り。映画界でのギミックとして、いかにもドイツ風の独特な容貌(身長は170cm)を活かし貴族名前の称号「フォン」を自称。グリフィス監督の下で「國民の創生」(1914)、「イントレランス」(1916)で助監督を務め、俳優としてはプロパガンダ映画で敵国ドイツの非情な将校を演じ冷徹な性格俳優として注目される。

なるほど本作は自身の長所を存分に活かした監督・主演だったことがわかる。公開時期も第一次世界大戦直後(前年に終結)であり、ドイツ系悪漢将校の策略と破滅という物語はアメリカ国民の溜飲を下げたことだろう。

印象に残る映像も多かった。妻マーガレットの悪夢に現れる黒バックの中尉の顔と白手袋。クライマックスで畳みかけるカットバック。そしてロケによる岩山登山の描写は映画にスケールをもたらしていた。

後の「愚かなる妻」(1922)でも軍服の詐欺師を演じ、代表作「グリード」(1924)のクライマックスでは本作と同様に過酷な大自然を舞台にしている。このデビュー作で既にシュトロハイム監督の型は出来上がっていたのだ。

オーソン・ウェルズはシュトロハイムに対し”真の芸術家-かの才華こそ、わが望み”と称えている。
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