eigajikou

キャプテン アブ・ラーイドのeigajikouのレビュー・感想・評価

4.1
『キャプテン・アブ・ラエド』
「Captain Abu Raed」

50年ぶりのヨルダン製作作品。空港清掃員ラエドがゴミ箱から拾った機長の帽子を被っていたら近所の子供ターレクにパイロットと間違われる。妻を失ってから家では彼女の写真に話しかけるだけの寂しい生活をしていたラエドだったが、本好きな彼は子供らに読書で得た知識を元に世界中の旅話を聞かせ始める。
国際線機長のヌールは前時代の遺物のような家父長制オヤジ根性丸出しの「女の幸せは裕福な男性との結婚」と信じて疑わない父親からのお節介な縁談話にウンザリしている。外国語も少しできて知的なラエドがなぜ清掃員をしているのか興味を持った彼女はラエドと親しく話すようになる。
仕事のストレスで酔うと妻と子供に暴力を繰り返すDV父に虐待されている少年ムラードはラエドの隣家に住んでいる。ムラードはラエドがアンマンの国際空港の清掃員だと知っているので、ラエドを機長と思って彼の話しを楽しんでいる貧しい地域の子供達に彼が機長ではない証拠を見せると数人選抜して空港に連れて行く。費用は親のお金を拝借したためその後父の逆鱗に触れ大事になる。
ラエド役(ナディーム・サワールハはハリウッド映画にも多数出演しているヨルダン系イギリス人のベテラン俳優)とDV夫役(Gandhi Saber)以外は素人(当時)
子供達は難民の子供らが演じている。本作は2007年製作だがヨルダンは難民受け入れ国でこの20年ではイラクやシリアからの難民も流入して今は人口の15人に1人が難民だそう(イスラーム映画祭8パンフより)
子どもには安心して教育を受けられる環境が大事。
ラエドの愛と犠牲がムラード少年の未来への道を開いた。

女性の生き方、児童労働、家庭での配偶者や子どもへの虐待、労働差別といった普遍性のあるアクチュアルな問題も織り込みつつ、暗く絶望的な作品にしていないのは2003年に設立されたヨルダン国産映画を奨励する王立映画委員会の資金提供があった50年ぶりのヨルダン映画ということだからでしょうか。
アンマンで生まれ、アメリカのオハイオ州コロンバスで育ったアミン・マタルカ監督の長編デビュー作。卒業制作作品でもあるとのことなので卒業制作としてレベルは高いと思いました。
eigajikou

eigajikou