tristana

キング・オブ・マーヴィン・ガーデン -儚き夢の果て-のtristanaのレビュー・感想・評価

5.0
子どもの頃のちょっとした思い出をうまいこと改変して、祖父を殺した残酷な美しいストーリーとしてラジオで語るニコルソン。それなりの才能と自負。しかし寂れた地下鉄で家に帰ればそのラジオを聞いていた二人暮らしの祖父からのやっかみ。このスタートの時点で只事でない素晴らしさ。ボスの名前を騙ってハワイの島を買うだとかスケールだけはデカい話を方々で吹きまくるブルースダーンにも焦りはあるのだろうか。その彼に義理の娘に乗り換えられたエレンバースティンは自分の虚栄を葬り去るかがり火を焚く。アイメイクは砂浜に埋葬。「あなたはアーティストだもの」で百戦錬磨の義理の娘のプライドくすぐりにコロッと参ってしまうニコルソンの僕たち感じ合ってるよね?にも彼女はピンと来ない様子。四人だけで盛大に祝うミス・アメリカの茶番も経て、いい加減に誰かがブチ切れないといつまでもだらだらと終わらない牢獄、ニュージャージーの曇った海。お遊戯の終わり、悟りを開けるほどのショックも感じることができず日常に戻るしかないニコルソンの涙まじりの語りは白々しく響くばかり。自分の居場所に違和感を覚え、周りを見回してみると舞台装置しかない、と気づいてしまった男の白昼夢。見るものの心の底にある漠然とした、しかし表に出てくれば一撃で凶器になりえる危機感のようなものの存在を意識させるに十分な映画。
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