めしいらず

鏡の中にある如くのめしいらずのレビュー・感想・評価

鏡の中にある如く(1961年製作の映画)
3.7
著名な「神の沈黙」三部作の最初の作品。重篤な精神病を患う娘を己の小説の題材として見てしまう父親像が、あの芥川の「地獄変」の絵師を髣髴とさせるけれど、ベルイマンは家族に対して抑圧的であった自身の父親を重ねているのだろうと思う。だから父に対して卑屈になってしまう息子はベルイマン自身ということになるだろう。憎悪した父と同じ血がベルイマンにも流れていたのは皮肉であるが当然とも言えそうである。真の芸術家は己の中にある美意識の衝動にどうあっても抗えない。母を早くに亡くし父には愛されて来なかった姉弟が、愛を知らないから他人の愛も信じられなかった為に、信じられる愛を欲して禁断の領域に踏み込んでしまう悲劇。その後で恐ろしい蜘蛛の姿の神が身体の中に侵入してくると姉が言ったのは、彼女の心が己の罪深さに耐えかね遂に壊れてしまったからだろうか。息子に対し恥知らずにも愛の大切さを語り聞かせる父に、それでも直に言葉をもらえた嬉しさを見せる息子が哀れである。
陰影のコントラストが強い映像が印象的。古今の宗教的題材を扱った映画にはバッハの楽曲が多用されてきたけれど、この映画の遣り切れなさにも無伴奏チェロ組曲が実に似つかわしくて見事。
再鑑賞。
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