むっしゅたいやき

曳き船のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

曳き船(1941年製作の映画)
3.8
フランス映画界の重鎮であった、ジャン・グレミヨン監督作。
海に生きる男と陸で待つ女性、そのあわいで生まれた短い逢瀬を詩情豊かに綴った物語。
主演にはジャン・ギャバンとミシェル・モルガンを用いた名作である。

本作のタイトルである「曳き船」とは、現在曳船(えいせん)もしくはタグボートと呼ばれ、船体サイズの割りに大きな動力を持ち、大型船の取り回しが効かない港湾内での離着岸の補助や外洋での救急救命に用いられる船舶を指す。
本作での船舶の用途は後者に当て嵌まり、ジャン・ギャバン演じるアンドレ船長が時化にも負けぬ荒くれ者共を率いている。

物語の骨子はこの曳き船での彼等の職務の様子を縦糸とし、緯糸として海で生きる彼等と陸で待つその妻達との途絶を織り込みつつ進行するのであるが、前者では荒天でのスリル溢れる救出劇が緊迫感を持って描かれ、その妻、或いは愛人との静かで平穏な暮らし、逢瀬との対比が図られている。

緯糸の主軸であるアンドレとカトリーヌの関係性では、その逢瀬の地として砂浜が選択されており、これは海を生活の場とする夫アンドレ、陸をその場とする妻イヴォンヌとの緩衝地帯である事を示唆する。
アンドレ、そしてカトリーヌの双方が、共に生活の場の相違を暗黙の裡に了解していると捉えるべきであり、これが後のヒトデ(海の星)の贈り物とその返還に活かされる点に物語構成の妙味が感じられる。

81分と短尺ではあるが、よく練られた脚本と円熟味の有る名演により、長く記憶に残りそうな作品である。
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