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サスペリア・ナイトメアのhorahukiのレビュー・感想・評価

サスペリア・ナイトメア(1993年製作の映画)
4.1
これは凄いぞ!!
ビジュアル的な美しさに終始圧倒される傑作オカルトホラー。90年代にこんな化物ホラーが生まれDVD化されずに眠っていたなんて…。

父親の遺言に従ってやってきたのは文明から隔絶した島の教会。そこにしばらく滞在しなければならなくなった主人公エリザベスは、島に漂う異様な雰囲気に気づく。みんなが怪しい。そしてエリザベスは恐るべき秘密へと辿り着いてしまう…。

黄色味がかったくすんだ映像。大きな十字架を頭上に掲げ崖の上に横一列に並ぶ人々。磔にされたキリストの背後を流れ落ちる水。無数のロウソクと揺らめく炎。燃え盛る十字架。まともに言葉を話せない盲目の老尼僧。「不穏」というひとことで片付けてしまうのは乱暴なんだけど、「不穏」としか言いようがない。そんな一方向に向いたイメージの積み重ねが心をギリギリと締めつけて離さない。

そして、そういったイメージに重ねられる音の力の偉大さ。洞窟の中でチョロチョロと流れ落ちる水の音。チリチリと燃え盛るロウソクの炎の音。降り続く雨の音。余計なものを盛り込まないが故に、当たり前に存在する飾り気のない音が異様なほど「不穏」の増長を手助けする。

もちろんそう言った自然音以外のBGMも時折挿入されるのですが、BGMのオンオフでその場の空気感をガラッと変えてしまったり、子どもの歌声や低く唸るような音がこれまた尋常ではなく嫌な感覚を呼び起こされたりと、音の使い方がうまい。

映像と音。その2つが執拗に「不穏」を盛り上げ、次第にそれが「恐怖」へと繋がっていく考え抜かれた演出と構成の巧みさ。後半に差し掛かる頃には、私たちが暮らしている日常とは全く違う何か別のものが支配しているかのような舞台へといつの間にか変貌してしまっている。常識も物理法則も何から何まで通用しないのではないかと思えてしまうほどの異界。でも決して派手なものではないし、表面的な目立った変化があるわけでもない。だけど明らかに「違う」ということが伝わってくる。

本作の異常さは内側に向かって閉じたもの。だけどその背後にはクトゥルフ的な途轍もなく大きな力が見え隠れする。この感覚にゾクゾクした。本当はもっと色々書きたいんだけど、凄過ぎて自分の感情が全く言語化できない。見てくださいとしか言いようがない。とにかく怖いんです。これ。

そしてクライマックスに至る頃には、舞台となる島や教会が現世だとは私には到底思えなかった。残虐描写や派手な仕掛けに頼らずにここまでの「異界化」を成し遂げたマリアノバイノ監督の力量は本当に凄いと思う。これ以外には短編を何本かとビデオ用映画を撮ってますが、残念ながら日本には全く入ってきてない。

イタリアホラーの低迷期となった90年代以降にも何作か有名な作品はあるけど、知らないだけで本作のような化物がまだ眠っているんじゃないかと思えてしまう。マリオバーヴァやダリオアルジェント、クトゥルフ方面のルチオフルチが好きな方なら絶対ハマると思う。イタリアホラーは本当に凄いですね。なんとか国内Blu-ray化して欲しい。
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