わらじ

スペシャリスト 自覚なき殺戮者のわらじのレビュー・感想・評価

-
特集ナチス映画 出町座にて
渋谷哲也先生レクチャーつき

ずっとひたすら、ナチスの中佐アイヒマンの裁判記録映像。これまた、「夜と霧」とは違うしんどさ。
これを観ていると、長い物には巻かれろというか、上からの命令に従ってそのままユダヤ人虐殺を遂行してしまった…という「全体主義から生まれる残酷さ」をひしひしと感じる。

前時代的な王の絶対的な権力、それによる悪、ではなく、
皆が責任逃れをしようと空気を読んだり命令に従ったりした結果生まれる悪
誰にでも、アイヒマンのようになってしまう可能性は、あるのではないか、、、??と思ってしまう怖さがある

ただ、レクチャーでは、このアイヒマン像もまた、作り手の意図によるものなのでは?という疑問が提示された。

この映画は、ハンナ・アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』を参考にして作られたらしく、映画の方向性としては、「全体主義の悪」「官僚として任務を遂行したアイヒマン」。
でも、よりイスラエルの側に立って作られている『ショア』には、実際にアイヒマンと仕事をしたことのあるユダヤの長老が出てきて、「アイヒマン自身、もともと自覚的な反ユダヤ主義者だった」と証言している…
となるとアーレントや『スペシャリスト』の方向性とは真逆のアイヒマン像が浮かび上がってくる…という

どっちが正しいと白黒つけるのではなく、どちらにもとれる…ということでもあるのかもしれないし

レクチャー含め全体通して思ったのは
それぞれの立場の人が違う意図でドキュメンタリーをとれば、まったく違う着地の仕方をするんだな…ということ

ナチスは悪、というところで止めてしまわないで、そこにあった空気や仕組み残酷さとか、そうなってしまった理由や構造の問題とかもみていかないといけないんだな…
現代でもいろいろ似通った状況て出てきてしまっていると思うので
わらじ

わらじ