サマセット7

ユニコのサマセット7のレビュー・感想・評価

ユニコ(1981年製作の映画)
3.8
1981年公開のアニメーション作品。
原作・監修は「鉄腕アトム」「ブラックジャック」の手塚治虫。
監督は「はだしのゲン2」「はれときどきぶた」の平田敏夫。
脚本は「ジャングル大帝」「巨人の星」など無数のテレビアニメの脚本や推理小説作家として知られる辻真先。
ナレーションは、「なごり雪」で著名なフォークシンガー、イルカ。

[あらすじ]
人と仲良くなると、その人を幸せにする魔法を使える唯一無二の存在、「白いツノ」をもって生まれたユニコーンの子ユニコ。
人間を幸せにする力を神々に疎まれ、神々の命を受けた西風の精によりユニコは、時の彼方、忘却の丘に連れ去られることになる。
ユニコを不憫に思った西風の精は、忘却の丘ではなく、荒れ果てた孤島にユニコを降ろす。
そこでユニコは「孤独の悪魔」と出会うが…。

[情報]
1981年公開、サンリオ映画配給、手塚治虫原作のアニメーション映画。

原作の「ユニコ」とは、1976年から1979年までの間、手塚治虫が雑誌「リリカ」(サンリオ発刊)で連載していた漫画である。
後に小学一年生向けのリメイクも作られた。

手塚治虫の他作と比べると児童向け、とはいうものの、原作の内容はやはり、手塚治虫節の炸裂した、ハードで無慈悲なものである。
そもそもの設定が、人と仲良くなるとその人を幸せにできるが、人を幸せにしたころには、西風の精により、次の時間、場所に連れ去られてしまう、というハードモード。
また、魔法の力で得た「幸せ」は、本来の「幸せ」か?という哲学的問いまで含む。
可愛いらしい見た目に騙されてはならない、どこからどう見ても、手塚作品である。

今作は、原作のうち「ひとりぼっちのユニコ」と「ほうきに乗ったネコ」という中編エピソードを組み合わせ、いくつかの設定を単純化して長編映画化した作品である。
一見児童向けの作りだが、内実のハードさは原作譲りだ。

ディズニーなどと同じ劇場版用24コマ/秒の滑らかなフルアニメーションである。

予算、興収などは不明。
あまり知名度は高くないと思われるが、観た人にはそこそこ印象的に残るアニメ、という評価だろうか。

[見どころ]
ユニコの健気さ!
その過酷な運命!!
今の時代に見ると、これ子供向け!??となる怖い描写の数々!!
切ない物語!!!

[感想]
男爵!怖いよ!!

今作は、3つのパートで成り立つ。
1.最初に捨てられる孤島での孤独の悪魔の子供悪魔くんとの交流を描くエピソード。

2.次に連れて来られた先での、人間の魔法使いに憧れる猫のチャオとの交流を描くエピソード。

3.ユニコの力で人間の娘に変身したチャオに対して、森を支配するゴースト男爵が誘惑してくるエピソード。

冒頭の過酷な設定から嫌な予感が漂う。
第一パートでは、人とのまともな交流の方法を知らない悪魔君が、ユニコを虐めることを仲良くする方法と誤解して、酷い目に合わせるという展開に、今の目で見るとギョッとさせられる。
友情とは何か、考えさせられる。

第二パートは、猫のチャオが、一軒家に住まう老婆を魔女と誤解して、弟子になるために人間になりたいと願う話。
これはなかなかイイ話だ。

そして、問題の第三パート。
ゴースト男爵CV井上真樹夫、登場!!!
概略「美しい歌声だ。今晩我が屋敷でパーティーを開くから、来るが良い。歌を聞かせてくれ」と初対面のチャオ(人間バージョン)を石川五ヱ門ばりのイイ声で誘惑!!
怖いから!!!
世界観をぶち壊すベル薔薇的容姿と不穏な効果音も相まって、ダメダメ!ついて行っちゃダメ!!!と観客の警戒心を登場時からマックスに跳ね上げる。

その後も外見未成年のチャオにワインをがぶ飲みさせるなどの蛮行を重ねる男爵!!
もはや未成年略取の現行犯にしか見えない。

案の定、彼は今作のラスボスとしてユニコの前に立ちはだかり、緊迫のバトルに発展する!!!

が、よくよく考えると、彼がやった悪いことって何だろう?
現代日本じゃないのだから、未成年を正当な理由なく自宅に連れ込んだこと、とか、お酒を飲ませたこと、ってことはあるまい。
が、今作だけ見ると、そうとしか見えない。
オジサンは、未成年者に色目を使ってはならん、という、青少年保護的メッセージが含まれているのか?
それとも彼の正体が問題なのか?
それはそれで、モヤモヤするものがあるのだが。

その後原作を読んだが、かなりの改変が加わっている。
特に、ユニコを追放する原因が、神々のよくわからない言いがかりではなく、美の女神ヴィーナスの、ユニコと仲良くしている人間の美女への嫉妬である点、男爵の正体とその行動原理が、大きく異なっている。
原作では、男爵が報いを受ける理由は明確で、分かりやすい。また、チャオがヒロインである物語的必然性があり、さすが手塚治虫先生と思わされる。

この改変は90分の尺の問題と、劇場用アニメのクライマックスに迫力のあるバトルを用意したいという作劇的要請からのものだろう。
その結果、今作のヴィランの行動の理由がよくわからないものになってしまった。

ラストは、この物語の設定上、無条件にハッピーエンドにはなり得ない。
最終的な感想は、ハードな話だな!!というものであった。

[テーマ考]
ユニコが、「幸せ」のメタファーであることは、容易に推測できる。
原作では、人が幸せを得ても、その時に幸せと自覚できないこと、より多くを望んで、やがて破綻していくこと、など、シニカルなテーマを描いているように思える(子供向けとは)。

今作ではどうか。
最初のエピソードでは、友情とは何か、を。
第二のエピソードでは、人生(猫生)において、大切なものは、何か、を。
描いているように思える。

第三のエピソードのテーマ?
ずばり、知らない人に声をかけられても、着いて行ってはいけません!!!ということだ!!

全体としては、ユニコの一箇所に留まらぬ運命を踏まえると、天は自ら助けるもののみを助ける、ということかもしれない。

[まとめ]
手塚治虫マンガ原作の、可愛い絵柄とのギャップが激しいハードな設定のファンタジー・アニメの怪作。
ユニコのツノがかなり万能で、こんなことまで出来るの!??という使われ方をするのが、手塚治虫作品ぽくて楽しい。
サンリオ配給ならではの、キティちゃんカメオ出演もあって、ビックリさせられる。