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さらば愛しき女よのクレセントのレビュー・感想・評価

さらば愛しき女よ(1975年製作の映画)
4.5
フィリップは銃を片手に大男のマロイとともに海上に停泊したカジノ船にむかった。すべてはマロイがフィリップの探偵事務所に女を探してほしいと依頼してきたことが発端だった。ふたりは船に乗り込むとカジノを経営する男の部屋へ入った。マロイが言った。ベルマは何処だ?経営者は答えなかった。フィリップはふと置いてある女もののストールを手に取ると言った。グレイル夫人、扉を開けてくれ。それを聞いた経営者は観念したかのように言った。ヘレン、出てこいよ。しばらくして扉が開いた。そこには美しい女が佇んでいた。マロイは彼女の顔を見るとほほ笑んだ。やあ、ヴェルマ!会いたかったぜ。久し振りね、マロイ。女は笑顔でマロイを見た。フィリップは女を見て驚いた。だがマロイを見るなり言った。そうか。そうだったのか。それですべてがわかったよ。そうだったのか。突然ヴェルマはマロイに命令するように強く言った。マロイ、フィリップの銃を取り上げてちょうだい。そう言われてマロイは躊躇なくフィリップに近づくと簡単に銃を奪い取った。そして彼女に笑顔で振り向いたのだった。その瞬間ヴェルマの銃が火を噴いた。驚いたマロイの顔がみるみる歪んでいった。ヴェルマは構わず何度も銃の引き金を引いたのだった。(中略)すべてが終わった。いつものようにフィリップ・マーロウの心は晴れなかった。彼は苦渋と悔恨に苛まれていた。心に大切なものを失ってしまった喪失感があった。しかしこれが探偵稼業の宿命なのかもしれなかった。夜が明けるにはまだ時間があった。彼は街に戻るといつものバーのネオンが目に入った。そして彼の脚はひとりでにバーに向かっていた。遠くでは物憂いサックスの音色が彼の気持ちを推し量るように流れ始めていた。ああ、これが1940年代のアメリカン・ハードボイルドなのだ。物憂いジャズの調べが静かに流れはじめる。そしてエンドロールがこの物語の終わりを告げていた。席を立ちはじめる客がいるなか、私はその余韻に浸りたくて席を立とうとはしなかった。チャンドラーの作品はいくつか映画化されたが、この作品がもっとも似つかわしいと思った。タフなR.ミッチャムの物腰の柔らかさなと豊かな声量はフィリップのイメージにぴったりだからだ。そして登場したC.ランプリングの醸し出す退廃的な美貌無くしてはこの作品は成り立たなかった。
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