シズヲ

さらば荒野のシズヲのレビュー・感想・評価

さらば荒野(1971年製作の映画)
4.0
「私たち、これからどこへ?」
「カリフォルニアかな」

牧場主の妻が無法者一味に攫われた。無法者のリーダーは旅路の中で次第に彼女と惹かれ合っていくが、暴力的な牧場主は執念に駆られて彼らを追跡する……。妻を攫った無法者VS復讐に立ち上がる夫。善きアウトローVS悪しき牧場主。善悪の反転こそあれど、構図そのものは古典的な西部劇を踏襲。しかしマカロニ・ウエスタン以後にしてアメリカン・ニューシネマ期の作品であるが故に、とにかく殺伐とした死臭が漂い続ける。猟奇的なジーン・ハックマンが大半の原因だけど、作中で描かれる“暴力性”に全く容赦がない。というか原題の“THE HUNTING PARTY”からして過激。音楽がリズ・オルトラーニという点もマカロニ的なムードを更に強調する。

冒頭から乱暴なセックスを妻に強要しているシーン(牛の屠殺と重なる演出がバイオレンス)で大体察しがつくが、悪役である牧場主=ジーン・ハックマンが終始凶悪。性欲旺盛かつ差別的なサディストぶりを序盤から披露し、ならず者一味を襲撃する際には射的700mの狙撃銃で一方的な虐殺を展開。反撃不可能な遠距離から撃ちまくるので御無体すぎる。異様なまでの執念と嗜虐性を見せ、次第に仲間達からもドン引きされ始めるので大分凄まじい。妻を攫われたという点では被害者であるはずなのに全然同情の余地がない。ラストにおける“出現”のシーンは最早怨霊か何かの類い。

無法者のリーダー=オリヴァー・リードは紛れもなく誘拐犯ではあるし、最初こそ牧場主の妻=キャンディス・バーゲンに強引に手を出したりするが、肝心のハックマンと比べれば遥かに人間味に溢れている。攫われた妻と無法者の関係こそが感情移入に足るという倒錯的な構図。旅路の中で互いに何かを埋め合わせるように愛し合っていく二人のロマンスは、暴力的な作風の中で瑞々しく輝いていく。将来について語り合う姿の切実さが印象的。しかし仲間達は次々に倒れ、二人もまた少しずつ閉塞へと追い込まれていく。序盤での桃の缶詰を巡った愉快な下りが束の間のオアシスだったことを思い知らされる。ラスト付近の虚無的な絵面は如何にもニューシネマ的で、鮮烈な印象を残す。

比較的穏健な古典西部劇では忘れられがちだがフロンティア、どう考えても女性にとって危険すぎる。結果的にロマンスが成立したので結果オーライ的になっているけど、キャンディス・バーゲンは荒くれの男達に終始翻弄されっぱなしなので見ていて不憫になってくる。
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