滝和也

山羊座のもとにの滝和也のレビュー・感想・評価

山羊座のもとに(1949年製作の映画)
3.2
これはヒッチコック
だと思わなければ
それなりに…。

いや…やはり
ヒッチコックではある
のだが…。

「山羊座のもとに」

イングリット・バーグマン主演のヒッチコック監督3作品目であり、珍しい時代劇である。1830年代のオーストラリア、流刑の地から開拓時代を迎えたシドニーへ新総督とそのはとこであるアデアが着く所から物語は始まる。アデアはフラスキーと言う資産家に声をかけられ、彼の邸宅に向かう。彼の妻は嘗て憧れたヘンリエッタ(イングリット・バーグマン)だったが、貴婦人だった彼女は見る影もない酒浸りの様な姿だった…。異質な邸宅の雰囲気に彼女を治そうとアデアは励まし始めるが…そこにはある秘密が…。

時代的かつ文学的なメロドラマ要素とヒッチコックのサスペンス要素が中途半端に絡み合い、何とも言い難い作品に仕上ってしまっています。

アデア、フラスキー、ヘンリエッタそして彼女の侍女で女中頭のミリーの四角関係によるメロドラマ的でありながら、過去の事件によるサスペンス部分が交錯し、どちらも成功しているとは言い難いものとなり、サスペンスを期待すると完全にハズレになります。

サスペンス要素を盛り上げるための、イングリット・バーグマンの独白シーンはなんと5分を超えるワンカット長回しであり、彼女の悲哀、そこから醸し出す美しさは比類なきものなれど…、サスペンスとしての効果は薄く、あぁそうでしたかと言うレベルに…。そこなの!とばかりにそれまでの流れがメロドラマですからね…。

またワンカット風の実験作品ロープの次の作品だけに長回しを多用し移動カメラの流麗さは素晴らしいのですが、サスペンス部分ではなく、普通のシーンが多く効果はあまり上げていない感じ…。

時代劇だけに、下層階級と上流階級の差別の様な部分も多く、文学的な要素が濃く、かつドレス等の舞台衣装も美しいのですが、風と共に去りぬと言う巨人がいましたから、現代でそれを見ても…になってしまいます。ただカラー作品でドレスに身を包む薄幸の貴婦人と言うイングリット・バーグマンの美しさは流石ですし、その点に関してはやはりヒッチコックと言う作品と言えますよね。

御本人も失敗作と語る作品ですが、ヒッチコックと思わなければ実はそれなりなんだと思えますし、ただ知ってしまうと期待値が擦り合わない訳で…。やはりヒッチコックはサスペンスの神様であって欲しいですし…(T_T) 複雑です(笑)
滝和也

滝和也