Sari

ライク・サムワン・イン・ラブのSariのレビュー・感想・評価

4.0
イランが生んだ世界的名匠アッバス・キアロスタミの遺作となった、日本を舞台にした不思議な味わいの人間ドラマ。

現役を引退した大学教授タカシ(奥野匡)は、亡妻に似た若い女・明子(高梨臨)を、デートクラブを通して家に呼んだ。タカシは彼女をもてなそうとワインと食事を用意していたが、明子は手をつけることなく眠ってしまう。翌朝、明子が通う大学まで車で送ったタカシの前に、彼女の婚約者と名乗るノリアキ(加瀬亮)が現れる。ノリアキが、タカシを明子の祖父だと思い込んだことから、3人の関係は抜き差しならないことに…。
そうして、いくつかの嘘と、報われない他者への思いが交錯し、いつしか人生というドラマをあぶり出す。

ふとこれは現代の『東京物語』かと思ったのだが、撮影は東京ではなく、殆どが横浜で行われたようだ。それはさておき、映画を観ているという素晴らしい呼吸にあふれた映画である。冒頭の長い会話シーンから、物語が滑り出す車内シーンが素晴らしい。
リアルタイムで鑑賞していたらベスト映画だったかも知れない。画面に食い入るような長回し、素朴なカット割り、唐突なラスト。
主人公、奥野匡を始め日本人キャストも皆が良い。物語は大した事はないが、例え、凡百の日本人映画監督が同様なストーリーで撮りあけたとしても、こうはいかない。この編集センス、カッティングセンス、キアロスタミ・カットの素晴らしい息使いは、世界に飛び出せるフィルム・メーカーであると痛感させられる。
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