アーリー

マッチスティック・メンのアーリーのレビュー・感想・評価

マッチスティック・メン(2003年製作の映画)
4.0
2023.8.30

まじで聞いたことなかった作品。「ブラックホークダウン」の後がこれか。雇われ監督と言うと少し印象悪く感じるが、どんな脚本も面白く撮ったり、そこで自分の色を出すことの難しさと凄さを感じる。

U-NEXTのあらすじ欄でどんでん返しありと軽いネタバレを見てしまったため、身構えながら観てしまったのが唯一の後悔。ただまさかの主人公がそれ以外の人に騙されるという観たことない展開で綺麗に騙された。
 詐欺師ものやけども、主人公がターゲットをどう騙すかではなく、彼がどのように変わっていくかを描いた作品。娘の登場により、時折ホームビデオのようなほんわかした時があれば、人を騙す詐欺のシーンもあり、そして娘の危機を救おうとする父親のハラハラさせる瞬間がある。いろんな表情がこの作品にはあり、そして気付いたら話がひっくり返っている。けど主人公に悔しさはなく、1年後には新しい奥さんと子供を授かっている。騙されたのにバッドエンドじゃない。不思議な感覚。

ニコラス・ケイジの演技力。この人はなんとも言えない説得力みたいなものを醸し出す。演技に見えない。特に困ってる人やらしたらピカイチ。不器用で情けなくて、けどほっとけない。どれだけ大味な動きやったり演技させてもすんなり受け入れられるし、どれだけコメディな演技してもこちらを笑かそうとしてる感じが一切ない。素でこの人こんな感じなんかなと思わせる。けど今作みたいな強迫性障害とチック症を併発した役柄も完璧にこなす。潔癖なところは見ててイライラするぐらい。
 あとはアリソン・ローマン。14歳の女の子役。本人は21歳。まじで14歳の年頃の女の子にしか見えない。元からの顔の作りとかもあるのかもしれんけど、全然言うこと聞かんちょい悪娘感とか、大人びてるけどまだまだほっとけない無邪気な可愛さが感じられる。思春期の女の子の雰囲気を21歳でここまで出せるのか。凄い。

物語が始まった段階でもうサム・ロックウェルの計画は動き出してる。ただニコラス・ケイジにネタバラシするシーンに彼が登場しない。だから凄い唐突な裏切りに感じるし、彼の勝ちをこちらに感じさせることが出来ていない。ただ今作が描きたいのはそこではない。あくまでもニコラス・ケイジが求めていたもの。そして彼が変化していく過程を大事に描写している。だから多分それでいいんやろうし、狙ってそのシーンを撮っていない。主人公が自分が本当になりたい姿に気づく話で、そのきっかけがサム・ロックウェルによる騙しやった。詐欺映画に見せかけたヒューマンドラマ。ある意味ここでも観客は騙される。スカッとする気持ち良さを求めてたのに、全然違うテーマ。詐欺とも言えるかも。でも鑑賞後の気持ちは劇中のニコラス・ケイジと同じように悔しさなんてないと思う。

素朴と言ってしまえば確かにその気はあるけど、面白い作品。リドリー・スコットのフィルモグラフィーの中でもこんな気持ちになる作品は初めて。どんな話でもどんな映像でも撮れてしまう。改めて凄い監督。
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